演 目
決断の拠所
観劇日時/12.07.29. 14:00〜15:40
劇団名/演劇公社ライトマン
公演回数/第10回公演
原作/アントン・チェーホフ 作・演出/重堂元樹
照明/前田ゆかり 音響/山田健司 制作/五十嵐レミ
劇場名/BLOCH

中途半端な三人姉妹

 文字通りチェーホフの『三人姉妹』そのものだ。重堂元樹が、古典作品を現代化させようとする熱意には敬意を表するのだが今回の作品は中途半端だ。
 原作そのものの上演ではないのは当然だが、要所要所に原作が、そのまま出てくる、そしてその違和感がとてもつよいのだ。
 たとえば、おそらく時代背景は第二次世界大戦直後の北海道の地方都市らしいのだが、依然として旧日本陸軍が北海道に駐屯している。それは自衛隊ではなく陸軍軍隊であり、戦前の陸軍とはまるで違ったレベルの集団らしい。その辺が原作の帝政時代のロシアの軍隊なのだ。
 まずこの基本設定が曖昧なので混乱する。次に台詞が翻訳調であり、人物たちの衣装の時代考証がメチャメチャだ。というかとても現代的だったり抽象的だったりして、これも混乱する。
 もちろん、この作品を上演する確固とした意志が読みとれるならば、必ずしも時代や衣装や言葉を特定化・固定化する必要はなくても良い。自由自在であっても良い。
 だがこの舞台からは、原作のエッセンス以外の何者かを読み取れないのだ。この形に組み替えた意図が不明なのだ。
 時代の変転の狭間に遇して混乱し、新たな世界に向かって右往左往しながらも決意しようとする3姉妹と周りの家族たちの物語はそのままなのだ。
 だとすれば、原作そのものを演じるか、まったくの現代化を試みなければ中途半端な実験を見せられる観客にはフラストレーションしか残らない。
 もう一つ、この舞台は悲劇として描いている。チェーホフは「喜劇」と規定している。もちろん悲劇と認識したならば、なぜ悲劇なのかが示されなければならない。そのあたりも原作の文字通りの演出でしかないようにしか見えないのが物足りない舞台であった。
 軍医が男装の若い女性だったのが、新しい着想で何かがありそうで、そのあたりをもっと掘り下げると面白い何かが出て来そうだ。
 出演者は、長女=堤沙織・次女=小川征子・三女=塚本奈緒美・長男=フレンチ・
長男の妻=安藤信菜・次女の夫・中島麻載・
中佐=田村嘉規・軍医=びす子・大尉=重堂元樹
 ちなみに僕が以前見た『東京夢幻』(「三人姉妹」の翻案)は、北海道・道央部の朝川市に北斗食品の拠点工場があり、いまや全国に事業を展開する大企業となった北斗食品の創立者の一人である安藤家もこの朝川市にあるが、創立者も二代目の両親もすでに亡くなっていて、今は没落した三代目の姉兄妹たちが住んでいる。かつての大株主の私邸が工場の人たちのサロンとして賑わっている。という物語で、ほとんど原作の翻案でしかないようだったが、分かり易くて原作の意図が良く伝わる現代化に成功したと思われるものであった。どっちも安藤家という名前だったのに微苦笑する。