演 目
グローブ・ジャングル
観劇日時/12.7.22. 14:00〜16:00
劇団名/森組(北海道滝川市)
脚本/鴻上尚史 演出/森昌之  
照明/岩ヲ脩一 音響/岩井英司 舞台監督/星場厚志 
ダンス指導/山田晃宏 英会話指導/クーリー・クリスタル
制作/岩井英司・江本容子・井上雅晴・大崎直樹・前谷尚武
舞台美術/前谷尚武・井上雅晴・大崎直樹・成田翔平・森花音    衣装/佐藤由佳 
当日協力/大江未幸・成田翔平・藤田朝子・堀井公宏・森花音
劇場名/滝川市 たきかわホール

世界に広がった混沌の思い

 タイトルのグローブ・ジャングルというのは、最初に聞いた時には意味が分からなかったのだが、劇中で登場して判ったのは地球儀に見立てた球形のジャングルジムであり、僕も何となく見知っているものだ。劇中の台詞によると、この遊具は日本で開発されて世界中に広まったそうだ。
 だから話も、日本の若い人たちが様々な要因、主に日本での生活の挫折なのだが、そういう若者たちがロンドンで暮らす話になっている。
 劇団が上手く運営できずに投げ出して、ロンドンでIT関係の技術者として再生を目指している男(=新井康平)。
 ネットでの発言が問題となり炎上現象が起きた事に居場所を失い、死に場所を求めて辿り着いたロンドンのホテルで、自殺した若い男の亡霊(=香河壮志)に自殺願望を見抜かれて、次第に心を惹かれていく女性(=渋谷沙里)。
 この亡霊は自殺願望者以外には姿も見えず声も聞こえない。だがロンドン在住者たちに、この亡霊が見えたり声が聞こえたりする人たちが徐々に増えていく。
 この仕掛けがコミカルで演劇的で面白い。下手にやるとリアリテイの無いシーンにソッポを向かれかねない。観客がそろそろ、そういう疑問を感じ始めたころ、一度その場面を演じてから、もう一度、亡霊を外して同じ場面を演じると意外とリアリティを感じる。すると、その後の似たような場面に嘘っぽさを感じないという上手い設定である。
 日本人学校の日本語の補助教員(=星晃代)が、日本人としてのアイデンティティを保つために、日本の昔話を教えているのだが、演劇挫折の男の存在を知って、日本昔話の演劇化上演の話を立案する。この女性だけが一同の中で最後まで亡霊の存在が認識できない積極的な生き方をしている。
演劇は小学生たちに受け入れられず苦悩が続く。だが彼らはあの手この手を駆使して何とか成功させようと、努力と工夫を重ねる。
 そうする中に段々と、彼らも亡霊の存在が認識できなくなっていき最後にはヨーロッパ各地での公演が決まりツアーが組まれる。その中にはまた個人的な挫折があって全員が全員、このツアーに参加できないのだが、この結末は一種のハッピーエンドであり、そんなに上手くいくものか? という安易さも感じられる。
 演出で良かったのは、まずダンスのエネルギッシュで切れの良いのと、大きく華麗で見事なことが挙げられる。
 次にイギリス人が多数、登場するのだが、これが全部、等身大の切り抜き人形で、黒子の役者が後ろで支えて操る。これが如何にも外国人であるということをはっきりと示していて愉快であると同時に、一種の差別感を具体的に感じさせる。イギリス人と言えども様々なキャラクターがあって、善人もいればそこそこ悪どい奴もいて、それらが切り抜き人形で典型的に描かれる。これは戯曲の指定なんだろうか?
 全く舞台装置のない舞台で演じられるのだが、テーブルや椅子を出したり、たくさんの切り抜き人形を出したり引っ込めたりの転換時間を乗りの良い音楽を流して、役者たちがダンスのようにその転換作業を演じて、芝居の流れの中に組み込んでしまって、転換の空白を感じさせなかったのも上手い処理の仕方である。
 特筆すべきなのは、9人の若い素人役者が全員、粒の揃った迫真の演技者であり、嘘の少ないリアルな展開に納得が出来たのだ。
 実をいうと途中で少し長くてくどいなと感じ、瞬間的に瞼が閉じかかった。普通そんな時、いったん我に返り、その後また瞼を閉じるということを何度か繰り返した結果、ついには意識を失うのだが、今日はすぐ我に返り、それが持続して、そのまま舞台の世界に蘇ったのだった。それだけこの舞台が魅力的であったということであろう。
 その他の出演者は、役の名前と一致しないので氏名だけ紹介する。安井美沙・古山翼・三上真弓・堀江大輔・三浦雨林。