演 目
ヤクザ・リア王
観劇日時/12.6.2. 19:00〜20:40
劇団名/怪獣無法地帯
作・演出/棚田満 音響操作/松井千恵 衣装/佐藤宏美
制作/要害里奈 プロデュース/黒田拓
劇場名/ATTIC

迫真の全殲滅悲劇

 会場入り口で、その世界の人たちに扮した出演者たちに、それ流の歓迎の出迎えを受ける観客たちは、苦笑しながらもリアルなある種の緊張感を感じながら、何となくその世界を実感しつつ会場へと入って行く。
 さて物語は、シェクスピアの『リア王』を関西のヤクザ一家に翻案した全滅の悲劇。
御輿場団次(=長流3平)は、老齢の為に3人の息子たち(=渡邉ヨシヒロ・梅津学・秋庭峰之)に縄張りを譲り引退する決心をする。
 だが心底に一物もつ一郎と二郎は、上辺は仲良くシマを分ける振りして血で血を洗う徹底抗戦の泥沼に陥る。
 三郎だけは兄二人の心底を察して父の引退を諫める。だが逆上した父は、逆に三郎を勘当する。
 三郎は堅気になろうとするのだが、ヤクザの身元を知られ、まともな仕事に就けない。だが、ふとした親切気によって、元ヤクザの青果商(=棚田満)に住み込みで救われる。
 ラスト近く、最終戦争を知らせた、父・団次のただ一人の忠実な子分・菊次(=シチューやまもと)の注進によって三郎は現場へ急行する。
 ところが時すでに遅く、一郎軍と二郎軍は二人を含めて繊滅した後だった。一人辛うじて残った父・団次を連れ帰ろうとした、そのとき、ヒットマン(=亀井健)が父を狙い、それに気付いた三郎は盾となって撃たれ死ぬ。
 団次は狂気となって狂い死ぬ。一家全滅の悲劇だ。狭いATTICの空間に大勢のヤクザたちが、死に物狂いの大立ち回りを繰り広げる。「閉ざされた狭い空間で照明も多くて上演中はとても暑いです」という前説があって団扇が配られたが、まったく暑さを感じさせない緊張感の連続であった。
 この骨肉相撃つ大悲劇は、リア王の大悲劇そのものであると同時に、いつの時代でも何処の人間関係の中にも、規模の大小はあっても起こりうることだと想像すると、他人ごととは思えない背筋の寒くなるような殺戮の連続だ。
 三郎が苦労の挙げ句、可憐な青果店の少女(=原田充子)を助け、その元ヤクザの父親に拾われる課程は、この劇の中にあって唯一の爽やかな人間らしい一場で救われる。考えてみると他愛のない場面だが、全体の中では一際、目立つシーンだ。
 背筋の寒くなるような悲劇が迫真の演技展開で繰り広げられるのだが、芝居が終わってみると、それは僕ら観客からすると飽くまでも舞台の出来事であり芝居であり他人事でしかないことに気が付く。
これって何だろうか? 芝居って現実を架空体験して人間の関係性や社会の在り方を疑似体験して考えることなのであろうって思っていて、実際に今日のこの舞台もそんな疑似体験をして背筋が寒くなったのだが、それは結局、背筋が寒くなっただけの疑似体験でしかないのだろうか?
演劇の力の強さと同時に、それ以上ではない究極の弱さの限界を痛感する。逆に言えば、今日の舞台はそこまで考えさせる力を持っていたのだとも言えるのかもしれない。
その他の出演者。
一郎の妻=伊藤しょうこ 次郎の妻=山崎亜莉紗
一郎の部下=潮見太郎・ちゅらさん・菅原啓太
次郎の部下=濱道俊介・富田健輔・吉川直毅
受付嬢=長谷川碧