演 目
ことほぐ
観劇日時/12.6.2.〜15:00〜16:40
劇団名/intro
作・演出/イトウワカナ 照明/相馬寛之 
音響/橋本一生 舞台監督/高橋詳幸 
舞台美術/川崎舞 衣装/中原奈緒美
ドラマトゥルク/西脇秀之 
宣伝イラストレーション/針 宣伝美術/本間いずみ
劇場名/コンカリーニョ

観客を同伴する成長の記録

 舞台中央に6畳ほどの広さが部屋のように床に貼ったテープで仕切られ、周りはブランコ・シーソー・ジャングルジムなどのある遊園地。電柱が2本立っていて、50年以上も昔のような歌謡曲がかすれて流れている何となく侘びしいような賑やかなような雰囲気である。
 部屋には部屋の主の妊婦・愛子(=菜摘あかね)と一緒に、愛子の友人である姉妹の姉・さとみ(=のしろゆう子)と妹・えりこ(=柴田知佳)の二人のこれも妊婦が共同生活をしている。
 愛子が身籠っている子は不倫関係の子らしく、居候姉妹の姉・さとみの相手はDVの夫(=佐藤剛)であり、彼女は夫から逃げ出して来たらしい。そして妹・えりこの相手は本人も分からないようだ。
 だが彼女ら3人は全員、全く自分たちの境遇を分かっていないようにみえる。男には頼れるはずもなく、金も仕事もないのに互いに責任をなすりつけ合い暴力沙汰の喧嘩まで行っても結局、行くあてのない3人は、何となく収まらざるを得ない日々で決定的に決裂することもない。
 貧乏ぶりをフト知った隣に住む男・杉田(=加藤智之)が、水道を止められたのなら自宅の水道を使えと申し出る。彼自身も一文無しのフリーターだ。何となく貧乏人同士が共同生活を進める。
 愛子の兄でゲイの英一(=大高一郎)が、ハワイの新婚旅行から土産を持って訪れる。 
 あたかも公園では盆踊り大会が始まっていて、宵のうちは子供盆踊りであり、懐かしくも賑やかな子供盆踊りの音楽が聞こえる。空腹のえりこが出店の焼き鳥を万引きしてくる。それを追って町内会の焼き鳥係りで、えりこのバイト先の上司・山下(=宮沢りえ蔵)が追及に来る。
 DV夫の河野、愛子の兄・英一、上司の山下の3人は、女たちを諭すが、彼女らにとっては、それは大人に都合の良い勝手な論理に過ぎない。
 なぜか彼女たち側に味方する杉田の思いも、成人しない側の勝手な論理かもしれない。
 これらの論理は考えようによっては、自分たちは悪くないのに悪条件の環境へ追いつめられた底辺の人たちへの応援歌のようにも感じられる。一見、ずいぶん自分勝手な暴言のようにも聞こえるのだが、真実の裏面を炙り出しているとも感じられるのだ。
 さとみはDV亭主に絶縁を宣言し、針のむしろを覚悟して実家へ帰る決心をする。愛子も過去の実情を捨て去って何とか自立するつもりだ。そしてえりこは杉田を好ましく思う。
 あたかも盆踊りは大人の部に入ったらしく、賑やかな北海盆踊り歌に代わる。
 賑やかな会場の飾り照明の中、3人は部屋中を盆踊りで踊り狂い、それに男たちも合流する。
 これは本当に「ことほぐ」ことなのか? 危なっかしく、だが力強い出立だ。
 子ども盆踊りに合わせて、3人の女たちの子どもっぽい考え方と行動を容認するような展開があって、夜が更けるにつけて盆踊りは大人の部に入り、3人はそれにつれて大人の考え方に成長していく。
そしてそれは、やはり「言祝ぐ」ことなのであろうか? 盆踊りの喧騒に紛れて大人になることをうやむやに紛らわせてしまうというのか? というかやはり素直に「言祝ぐ」ことなのであろうと了解する。
 前半、男たちはそれぞれ舞台の目立たないところでじっと出待ちをする、イトウワカナ得意の舞台を客観視するような演出であり、客席が舞台を180度に取り囲む円形舞台も、観客たちが舞台の進行を我が事として互いに見つめ合う仕掛けでもあろう。
 様々な面で、イトウワカナの才気溢れる好調な演出の舞台成果である。