演 目 学生ダイアリー 観劇日時/12.5.27. 17:00〜18:30 劇団名/アトリエ 作・演出/小佐部明広 舞台監督/坂内泰輔 音響/小佐部明広 照明/増田好乃美・相馬寛之 衣装/小山佳祐 小道具/有田哲 宣伝美術/野華奈江 制作/竹内麻希子・喜多満里奈 受付/佐藤紫穂 出演者/阿部星来・玉置陽香・佐藤愛梨・小山佳祐・ 有田哲・ビルタテル・井上嵩之・田村貴大 劇場名/シアターZOO |
滅亡への入り口 ある大学のクラブ部室の控え室のような大部屋。様々な学部のいろんな学年の学生たちがやってくる。今日は別の大きな部屋で例年の何か大きなイベントの打ち合わせの会合があるようだ。 集まってくる学生たちや卒業生・中国からの留学生たちは、大会が始まるまでに三々五々気楽に雑談している。 話の中心はもちろん今日のイベントだが、何故か北朝鮮が日本を狙って核弾頭を打ち込むという噂が何気なく会話の中に入ってくる。 それに対して学生たちは基本的に無関心だ。すぐに話題を逸らし、相変わらずどうでもいいような日常の男女関係や目下の最大関心事である就活の話に戻っていく。 こういう話の展開は、劇作家・平田オリザの作劇術に類似していて、まず劇の起こる場所がその中心の話の起きるべき場所じゃなく、付随する場所で起きること、たとえば話題の中心であるべき大会議室が舞台にならずに控室が舞台になることで話題の中心が脇になること。したがって話題が中心ではなく周辺の問題に集中することだ。 そして最も大事なのは、その現場ではドラマが起きないのだが、それぞれの登場人物の内部ではフツフツと個人的なドラマが起きていること、だがそれはあくまでも表面に現れないこと。 そして第3は舞台の始まりと終わりが明確でなく、いつ始まったのかいつ終わったのか、一時の夢ではないのかという感覚…… そういう三つの感覚が平田オリザとの共通性を感じるのだが、作者・小佐部明広は、いつも何かをなぞるような作風ながら、実は全く違う表現を示しているのだから、さて今回も小佐部明広が書こうとした真意とは何なのか? という興味津々とならざるを得ないのだ。 小佐部明広が描こうとした世界……終末の世界、虚無と絶望……観ている我々はそれにどう応えるのか、僕自身もそれに応える術もなく今日もただ酔い痴れているだけなのだ。 さてこの舞台、劇団TPSが02年5月に上演した斎藤歩・作の『太陽系第三惑星異常なし』と偶然だがまったく類似しているようだ。次にその観劇記の要点を紹介する。 ☆☆☆☆☆☆ 登場人物たちの話題は、もっぱら日常生活の身近なトピックであり、しかもその話は一向に噛み合わず、常にどちらか片方が一方的に早合点して妄想を膨らませた挙句にこんぐらかってしまう。 やがて2年11ヶ月後に巨大な宇宙遊泳物が地球に衝突することが判る。そんな大事なことさえ個人的な食い違いの話題の中に巻き込まれて話がトンチンカンになる。誤解した方が怒鳴りまくって話をうやむやにしてしまうというパターンが繰り返され、相変わらず身辺の日常的ゴタゴタから離れられず、太平楽な顔をして日が過ぎて行く。 2年11ヶ月といっても個人レベルで考えてみれば、たとえば癌の宣告を受けたのと同じことになるのであろうか? 現実離れした遠い未来に舞台を設えてみても、人間の小さな営みなど一向に変わっていないということか。噛み合わない会話は客席に哄笑を起こさず苦笑を誘うだけなのは何故なんだろう? 『続・観劇片々』第1号03年3月刊より ☆☆☆☆☆☆ 実に良く似ているのだが、『太陽系第三惑星異常なし』は、10年も前の作品だし、僕の知る限り一回だけの上演だから偶然の類似だろうけど、10年も経っても、いやむしろ、これからもこの恐怖の現実は限りなく続くかもしれないのだ。 |