演 目
お芝居と朗読会
観劇日時/12.4.8. 14:00〜15:20
劇団名/演劇集団:森組
上演形態/花祭りチャリティーステージ
音響/岩井英司 制作/演劇集団:森組
会場名/赤平市・全龍寺 本堂


■演目1  蜜柑■
作/芥川龍之介 出演/森昌之

 お馴染みの短編小説をじっくりと聞かせる。さすがに聴衆の心にしみる読みだ。そもそも僕は、他人の朗読を聞くくらいなら活字で読んだ方が良いと思っている。
 ただし話芸は別で、その話す技術みたいなものに大きな魅力を感じると思っていたのだが、今日のこれを聞くと、正に話芸で、日常のささやかな感傷が素直に伝わる佳品であった。


■演目2  蜘蛛の糸■
作/芥川龍之介 出演/田伏清巳

 これを聞いて、もう一度驚いた。『蜜柑』を読んだ=語った森昌之の上を行く「読み芸」であり「話芸」であった。
 これもお馴染みの短編小説だが、活字で読むのと違った空想の画面が創造される思いだ。
朗読芸とでもいうものを再発見したような感じであって、大きな収穫だったが、果たしてすべての朗読というものが、今日のような感銘を受けられるものかというと、それには大きな疑問が残る。


■演目3  吸血鬼 
作/ブルースカイ 出演/浅野多紀子・古山翼・堀江大輔・森花音

 狭い空間で屈託する4人の若い男女。一人が吸血鬼に血を吸われていて、そのままだと全員が吸血鬼になる危険がある。
 その男は信頼する仲間が吸血鬼にならないために危ないときには殺してくれと頼む。だが皆はそれを了解しながらも疑心暗鬼が絶えない。信頼を裏切りそうになりながらも辛うじて立ち直る。
 結局その騒動は信頼と不安の相克で疑心暗鬼の仲間たちの気持ちと行動であったのだ。そういう集団の微妙な人間関係を象徴的・図式的に描いた好短編である。
 だが、硬い演技は台詞もスムーズに運ばず、ちょっと覚束ない展開だが、若さの純粋さが感じられる舞台であった。


■演目4  ピロシキ 
作/中野守 出演/渋谷沙里・安井美沙

 医者は患者の肝臓がピロシキ化していると診断する。患者は何かの冗談だと相手にしないが、医者はどこまでも真面目だが実は荒唐無稽だ。
 この意志のチグハグな交錯が滑稽に描かれる。患者はさっさと逃げ出せばいいのだが、何故かまんまと医者の術中にはまりこんで苦悩する。
 一種のマインドコントーロールのような感じで、この患者を一概にバカに出来ないような気もする。

  ☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 お寺の本堂では、コンサートやリサイタルなどが行われることは時々聞くけれども演劇というのは珍しい。
 この4編の出し物が、お寺の「花祭り」のアトラクションとして演じられるのだが、演目の間合いには大崎直樹が「舞台豆知識」として講釈する。その内容は「上手(かみて)・下手(しもて)」とか「わらう・はける」「ばみり」などの意味と語源などを丁寧に解説するのだ。
 お寺の本堂という畳敷きの大部屋で、薄暗いのだが照明は全く使わず、天井の普段の照明と三方を囲む障子から差し込む柔らかな自然の明りだけで演じられる。
舞台はビールの空き箱を並べて、その上にパネル板を固定しその上にカーペットを敷いた簡素なものだが、これで充分な設備となり、普段このような芝居を観ることのない60人ほどの人たちが、十分に楽しんでいたことが分かる。
 森組の取り組みに拍手を送りたい。僕も新鮮な感覚を充分に楽しめた。芝居ってどんなところでも出来るんだ。ホールが無いと言うのは言い訳の逃げ口上なのかもしれない。