演 目
霜月駅ばあさんのこと
観劇日時/12.3.24.  16:00〜17:20
劇団名/いわみざわドラマシアター(市民演劇)
公演回数/第4回
脚本・演出/イナダヒロシ
大道具/中島憲 衣装/村山里美 スタッフ/今泉織里
音響/藤谷浩平 スタッフ/竹内修一
劇場名/岩見沢文化センター まなみーる

老人と家族

 精神的に老いて認知症に傾いていく老婦人と、その家族との切なく、だが誰にも避けられないストーリィは市民劇として普遍性の強い物語。
 鉄道の廃線で廃駅になった霜月駅は、退職し脳梗塞で入院中の元駅長(若いとき=上西佑樹)の願いで、その娘夫婦(=茂泉雅美・福田広樹)が払い下げを受け食堂として再出発した。
 日常の中に様々な誇張をうまく嵌め込んで、芝居に慣れない観客を馴染ませながらも集中させる物語作者・演出家としてのイナダ匠の素晴らしい技。
 そして特筆すべきは、16人の素人出演者の個性を巧く引き出して全くアマチュアくさい違和感がない。少ない出番の出演者も、全員がそれぞれにいわゆる板に着いた演技で感嘆させられる。
 特に妹(=千葉幸恵)の亭主(=パンフに記載なし)を演じた中年男性は、ワンシーンの出番なのに惚けていながらしっかりとした発声とリアクションで強く印象に残った。
 そして老婦人の老いた幻想で、食堂の壁が開いて昔の駅が現れ、たくさんの乗客が無言で乗り降りする場面は往時の盛況を浮かび上がらせて感動的だ。
 これはイナダ氏の前作『落日のプーチン』と同じであり、あの元駅長のじいさんに対して、今度はばあさんだったけど、老後と家族の深刻な問題が軽快にイナダ氏らしく描かれて、一般の普段あまり演劇を観ないような観客の皆さんたちも感動していた、市民劇として価値ある一作であった。
 そして特筆すべきは、この主人公のばあさんを演じる役者がまだ若くて素人なのに、無理なく認知症の老婆を嫌味なく素直に演じていたことであった。