演 目
平成23年度 北海道舞台塾公演
 シアターラボ

公演日/12.3.11.
主催/北海道舞台塾実行委員会 他
舞台監督/高橋詳幸 照明/相馬寛之 音響/橋本一生・奥山奈々 宣伝美術/本間いずみ
舞台写真撮影/高橋克己・原田直樹 コーディネーター/前田ゆりか・小室明子
劇場名/札幌・琴似 コンカリーニョ


演目1  言祝ぎ 

観劇日時/12.3.11. 14:00〜15:10
劇団名/intro
作・演出/イトウワカナ ドラマドクター/畑澤聖悟
衣装/中原奈緒美

物語を普遍化させる演出手法

 一人暮らしの姉・ミカ(=田中佐保子)のお正月に、やはり一人暮らしの妹・アイ(=菜摘あかね)が来ている。寝っころがってTVを見ながら大声で義理笑いをしている。
 そこへミカの弟・エイチャン(=大高一郎)も来る。エイちゃんは典型的なオカマである、というかゲイである。
 アイは、愛を全うするという信念で結婚し離婚し不倫をしている。世間的には男にだらしない女だ。
 実は子供の頃、3人は暴力的な父親に悩んでいた。ミカはそれでも愛情を持っていたのだが、20年前の正月、ミカの作ったお雑煮を喉に詰まらせて急死した。以来ミカは、父親に対する贖罪の気持ちがトラウマになっていた。
 弟と妹は逆にそれ以来ストレスがなくなり解放されたのだが母は父の死後、行方知れずとなって一家離散の状況だ。
 3人それぞれの生き方の葛藤が語られ、弟・妹は姉にお雑煮を作ってくれと頼む。姉は拒否するが、弟は20年分の餅を買うために大きなリックサックを背負って出かける。
妹は出汁を取るためにキッチンに去る。一人残った姉は静かに膳を整えるところで静かに幕……
 大道具は3脚のイスだけで、大小二つのテーブルは床面にテープで形を示してあるだけ。会話中、きっかけで全員が席を移動したり、イスに立ち上がったり全体に様式的だ。これは『蒸発』でも試みられた演出であり、具体的でリアルな物語が一転、この場合「愛憎」とか「年月の重み」とか、普遍化される重要な表現方法として感じられるであろう、イトウワカナ独特の演出法として評価したい。





■演目2  Man-Hall

観劇日時/12.3.11. 16:30〜17:40
劇団名/リリカル・バレット
作・演出/谷口健太郎 ドラマドクター/御笠ノ忠治
制作協力/上田知 共同プロデユーサー/秋元幹子

心の闇を閉じこめた穴

兄(=明逸人)は、母(=庄本緑子)に愛されていた、と弟(=谷口健太郎)は劣等感を抱いていた。
 ある日、友人(=城谷歩)と3人で遊んでいて、弟のミスで兄がマンホールに閉じこめられて行方不明になる。それ以後、母は脱力症に陥り父との仲も不穏になる。
 責任を痛感した弟は、病んで植物状態となる。心配する両親と(=父・棚田満)彼女(=原田充子)。
 弟の夢の中で、兄は100%弟を許す。弟は事件の原因となった憧れの兄の帽子をもらって、やっと元気を取り戻す。
 センチメンタルな主題を臆面もなく巨大化して観ていて恥ずかしいような物語だ。
 前回の『マンホール』はもっとリアルな社会派で見応えがあったはずで大いに期待したのだが、残念だった。
 他に医師で菅原啓太が出演。





■演目3  微睡っこしいの

観劇日時/12.3.11. 19:00〜20:10
劇団名/パインソー
作・演出/山田マサル ドラマドクター/福原充則
衣装・メーク/宮田碧 小道具/藤谷真由美
振付/坂本祐以 協力/上田知 制作/前田ゆりか

様々なメタファー

 話の展開とその内容は全く分からない。ドンドンとテンポよく変化する、理解を無視したナンセンスで展開の速い話の進行に着いていけないのだ。
 おそらく話の中心は、落ちぶれた作家志望の男(=潮見太郎)が大好物であるカレーの店を作りたくて、高校生の娘(=藤谷真由美)の偶然の大金入手を奇禍に、東奔西走するその現実無視で走り突っ走る姿を描く。
 それに絡むカレーを知らないインド人二人(=赤谷祥次郎・ほか)が無謀にもカレー店開業を目論む。そして下劣なのにカレーが大好きな銀行支店長(=ツルオカ)を引き込む。
 この大騒動が銀行やコンビニや高校の演劇部などを舞台に、下ネタ満載で入り乱れて演じられる。
 全体は近代の作家たち夏目漱石・森鴎外・福沢諭吉・宮澤賢治・芥川龍之介・太宰治・小林多喜二・三島由紀夫・川端康成・などなどを何ものかに向かう汗だくの集団として、下品に表現する一種の笑劇が大枠となる。
 これらの舞台上に起こる一つ一つのシーンに、何もないとは言えないような舞台だと思うから、何らかのメタフアーを求めて表現者と観客との格闘が刺激的なのだ。
 その他の出演者、青野さゆみ・氏次啓・熊谷嶺・谷村卓朗・富樫真衣。