演 目
折り紙
観劇日時/12.2.29. 20:00〜21:05
劇団名/Theare・ラグ・203
作・演出/村松幹男 音楽/今井大蛇丸 音響オペ/湯沢美寿々 照明オペ/瀬戸睦代 宣伝美術/久保田さゆり
劇場名/札幌・澄川 ラグリグラ劇場

折り方を間違えた女が二人

 母子家庭の母親、35歳OL・平野千恵美(=吉田志帆)は、我が子殺人未遂で拘留されたが、担当国選弁護士の交代が認められ、新たに多田瞳(=田中玲枝)が担当となり、一から聞き取りが始まる。
千恵美は悪魔と契約してその子を産んだが、その子を殺して自分も死ぬことが悪魔の意志だと、荒唐無稽の陳述をする。
 前任の弁護士は当然それを認めず、同棲する若い男(=登場せず)が連れ子を虐待したから間に立って悩んだ末に、我が子殺害に及んだと推理する。
 悩んだ多田は、仲が良く結婚まで考えている有能だが仕事の少ない私立探偵の蛯沢篤志(=村松幹男)に容疑者・千恵美の身辺調査を依頼する。
 その結果、同棲中の若い男は実はヤクザの隠し子で札付きのワルだが、3人組でレイプをした結果が智恵美の子どもであることが千恵美の親友の証言から分かる。
 ますます混迷した多田は、精神消耗状態の中、面接中の被疑者・千恵美を絞殺する。
 逆に拘留され収監された多田を見舞う蛯沢は、刑期終了まで待って結婚しようと申し出る。
 千恵美は折り紙が好きで、暇なときに良く折っている。その時の千恵美の言葉は「折り紙は、出来上がりをイメージして順序と折り方を間違えなければ、イメージ通りの物が出来上がる。だが折り方や順序を間違えるとまったく別物が出来上がる」と言う。
 智恵美は、地味だが一応OLであり、しかも通信教育の大学で心理学の勉強までしていた。逆にそれが悪魔との契約などという荒唐無稽の心理の罠に嵌ったとも言える。レイプの被害者でありながら一種の自己催眠による自己正当化に誘導するマインドコントロールの被害者でもあったのだろうか?
 その悲劇に巻き込まれた誠実な弁護士も、止むに止まれず折り紙を折り間違えた一人であろうか?
 歌い上げるような千恵美役・吉田志帆の台詞が、初め少々気になったのだが次第に、ある一つの想いに凝り固まった人間の思い詰めた心境の表現であると感じられる。多田役・田中珠枝とのさり気ない会話は平常に話されるのでホッとする。
 重苦しく動きの少ない会話劇心理劇で、観る者に重い想いを背負わせる舞台である。
 演劇は内容と同時に表現の工夫も大事であり、特にこのような場合、どこかにエンターテインメントの要素が欲しい。
 一つはテーマである折り紙なのだが、この折り紙が黒一色で大きさも手のひらサイズである。もちろんそれにはそれ相応の意義があるのだろうが、発想を変えて五色の派手な色使いにするとか、巨大な折り紙の作品を出すとかすると視覚的に面白いのじゃないかと思われる。
 いま一つには、多田瞳と蛯沢篤志の関係である。これはこの重苦しい一篇の中で唯一、柔らかな部分だから何かもっと戯画化できたら観易いのではないかと思われる。