演 目
アテルイ
観劇日時/12.2.19. 18:30〜21:10(途中休憩10分)
劇団名/T☆S Project
公演形態/プロデュース公演
作/中島かずき(劇団★新感線)
演出/高井尚樹 舞台監督/武田修一 
照明/國枝一則・室井秀之 音響/栗栖良太・石田陽春
特殊効果/藤原敦 衣装/井盛孝幸・大下大希
広報/寺山修・梅津愛 パンフ作成/山本幸枝・仁木麻子
制作/島野浩一・工藤夏美
事務局/富田一・吉野明日香
大・小道具/塩野谷ひとみ・中川靖子・巻島祐二郎・他一同
劇場名/旭川市 旭川市民文化会館 小ホール

虚無の一大絵巻

 平安時代、大和の国は北の異国の脅威に対抗するという名目で東北地方の蝦夷を武力で統一しようとしていた。蝦夷は小さな独立国がそれぞれに自然と馴染んで平穏に暮らしていた。
 そのころ京都では「立烏帽子党」と名乗る盗賊が暗躍していたが、人々は都に対抗する蝦夷の民の反乱だと怖れた。
 疑問を抱いた守護役の坂上田村麻呂(=島野浩一)は、踊り女・鈴鹿(=梅津愛)の協力を得て捜索を進めると「北の狼」を名乗る謎の男、実は北の神の呪いを受けて故郷を追放されたアテルイ(=高井尚樹)に出会ったのであった。
 ここからこの3人を巡る虚々実々の物語が展開するのだが、元祖「劇団・新感線」の舞台は、莫大な制作費用を掛けて膨大でエンターテインメントな舞台を創るのだが、実はその物語は人間を虚無的でニヒルで救いのない存在と思わせるような話なのだ。
 だからこの『アテルイ』も恐らく一見、この3人の友情と歴史の未来展望を描くようにみせて、実はその逆な展開になるのだろうと思っていた。
 案の定、話が進むほどに周りの多くの人々の関係は、駆け引きと反逆と裏切りと殺戮とに終始する。しかしその中でアテルイと田村麻呂は真摯の武将として真の友情を保とうとするが、周りの仕掛けにもあってたびたびの危うい橋を渡ることになる。
 この中で面白かったのは、すべての残酷な命令を下す帝と称されて簾内に隠されている存在が、実は空虚な無人だったと言うことだ。
 そして、それを告げるのは鈴鹿という謎の踊り女であり、彼女はアテルイにも田村麻呂にも大きな影響を与えながら悲劇に進んで行く。
 宿命の対決によって遂にアテルイは滅びるが、田村麻呂は勝ったとは思えない。彼の中には永久にアテルイは厳として絶えることなき友情として存在するのだ。そこにこそ虚無から辛うじて逃れた、この物語の存在意義があるのかもしれない。
 田村麻呂とアテルイの実在から創られた架空の物語だが、ここにも「いのうえ歌舞伎」と言われる華麗でニヒルな舞台の魅力が横溢するはずだが、残念ながら舞台のサイズが小さすぎて変化が少ないのと、絢爛豪華とは言えない舞台装置の貧困さ、そして一番売り物のはずの肝心の殺陣が舞台の狭さもあって壮大に繰り広げられたとは言えなかったのが惜しまれる。
 だが、辛うじて音響と特殊効果で救われて、2時間を超える物語の展開には素直に惹きつけられる魅力はあった。これを上演した集団の力は讃えたいと思う。
 出演者  山本幸枝・早川慎也・塩野谷ひとみ・木下大希・藤井正信・松下音次郎・中川靖子・大原清恵子・小野静香・立崎美由紀・森美幸・工藤夏美・仁木麻子・寺山修・石川春輝・齋藤慎太郎・巻島祐二郎。