演 目
セロ弾きのゴーシュ
観劇日時/12.2.13. 11:00〜12:10
公演形態/人形劇フェステバル2012さっぽろ冬の祭典
原作/宮澤賢治 脚本・人形美術/吉田清治
演出/高平和子 チェロ演奏/土田英順
演出補/廣瀬智博 音楽/一ノ瀬季生 照明/鈴木静悟
音響効果/オフイスこたけ 舞台監督/井川亮
その他のスタッフとキャストは膨大な人数なので割愛します。
劇場名/札幌市こどもの劇場 やまびこ座

自由奔放で楷書の舞台

 僕がこの舞台を観たいと思ったのには色んなたくさんの理由があるのだが、その第一は、僕が物心着いてから演劇というか舞台の世界に入ったそもそものきっかけは人形劇の魅力が大きかったのだ。それから紆余曲折があって現在、演劇の世界の大きな魅力に入り浸っているわけなのだが、やはり人形劇は僕の故郷でもあり、思い入れも一入なところがある。
 だから札幌人形劇フェステバルは何度か観ているし、特に去年の「札幌劇場祭」では、人形劇が大賞の候補にさえなったことで、現在の人形劇の実力を再確認したいというのが、まず第一にあった。
 次には宮澤賢治の存在が大きかった。賢治作品の舞台化はそれこそ山ほどもある。だがそれらのほとんどは、観終わったあと疲れて、オリジナルに戻って読み返さないと立ち直れないような経験が圧倒的だった。今度こそは、そうではない作品であってほしかったことが第二の大きな期待であった。
 そしてもう一つ、ゴーシュの奏でるセロを土田英順さんが演奏するという魅力も大きい。英順さんのセロを聴きたいという動機も大きい。
 そんな幾つかの動機を経て実際観た舞台は、楷書といっていいようなきちんとした作りの舞台であり、それは賢治の作品の大きな魅力である簡潔な訴えがすんなりと表現されていて、期待に応えてくれた感触が強かった。
 さらに賢治のもう一つの大きな特徴である、いわゆる「諧謔味」が人形という表現を通して巧く表現されたことだ。人形は現実の人間では絶対に表現できないことをたやすく演じることが出来る。これが人形劇の最大の魅力でもあり、実にうまく表現されて人形劇独特の世界が躍如として賢治に通じているようであった。
 特にこの舞台では、各種の小動物が特徴ある動きを遺憾なく発揮して、その面白さを表していたのだ。特に猫が暴れ回ったりネズミの子がセロの中に入ったりするのは人間では絶対にできない演技だ。
 そして嵐の夜の室内の荒れ狂う怖さ……これも普通の舞台では難しい表現なのだろうが、ここでは易々と演じられる。もちろん幕内では客席の想像を超えた苦労はあるのだとは思うが、易々と見える。
 ちょっと吃驚したのは、録音再生のオーケストラの音楽と土田英順の生チェロが実にすんなりと融合していたことであったが、ここでもやはりそれを繋ぐバイオリニスト(Wで今日の出演は小林佳奈)の存在が大きいと感じた。
 自由奔放に見えながら、実はきちんと楷書で賢治の世界が展開されていて、今度は別の意味でオリジナルを読み返したくなる衝動を起こさせる好舞台を堪能できたのであった。
人形劇の表現の面白さと可能性を再確認出来たような素敵な舞台であった。