演 目
亀、もしくは……
観劇日時/12.2.4. 18:00〜19:10
観劇日時/12.2.11. 13:00〜14:10
劇団名/劇団TPS
公演形態/札幌演劇シーズン2012冬 参加公演
原作/カリンティ・フリジェシュ 翻訳/岩崎悦子
脚色・演出/斎藤歩 照明/熊倉英記 舞台美術/高田久男
舞台スタッフ/TPS劇団員 制作/阿部雅子・横山勝俊
ディレクター/斎藤歩 プロデューサー/平田修二
劇場名/シアターZOO

メタドラマと迷路

  精神病院の一室で顔を合わせる、医師(=斎藤歩)と看護師(=すがの公)、看護師と医学生(=弦巻啓太)、医学生と患者(=清水友陽)の3つの組み合わせが次々と展開する。
 このやり取りが滑稽でもあり意味深長でもあるのだが、この三組とも何か必要以上に早合点の自分勝手な誤解で成り立っているような気がするのは、それぞれの関係を知っているからなのかとも思うが、それでも思わず吹き出してしまうのは、やはり手練れの役者の技量なのか? 話はそれだけであり、それが延々と約1時間に亘って展開される。そしてラストで4人が食事をしながら語り合う。
 その結末をここで話すとネタばらしになるのだが、この芝居はネタをばらしても決して面白さを損なうものではないと確信する。つまりそれでもなお謎は深まり、様々な推量と迷路に嵌るのは確かなのだから。
 この4人は全員がこの病棟に入院している精神病患者であり、この1時間に演じられた次第はすべて彼ら4人が考えて演じた芝居だったのだ。だから観客は完全に騙されたわけだ。
 彼らは何故、そういう演技を演じたのか? 一種のメタ・ドラマとも言えるこの1時間は何だったのだろう?
 入り口のドアが内開きなのを、医学生が焦って外開きと思い込んで閉じ込められたと観念したり、頑丈に気密化されているはずの壁から自由に出入りしたり、硬軟取り混ぜた仕掛けが何かを暗示している可能性を想像する面白さも多い。
 ラストシーンで医学生を演じた患者が明日のゴッコ遊びの結末を、「夕日に向かって屋根の上で歌っているうちに、亀がフワリと空へ舞い上がるんです。夕日を甲羅に浴びて、上昇気流に乗って、どこまでも、プカプカと浮かんで行くんです……そうだ! そして空からみんなを亀にしてしまうというのはどうですか? いつしか空は星空に変わり、青い月明かりのなか、四匹の亀がフワフワ、プカプカと夜間飛行するんです。そのうち一匹、また一匹と地上からプカプカと亀が浮かんでくるんです。星空を覆い尽くす亀。それを見守るのは星と、青い夜空と、お月様。どうですか?」(『戯曲集』より)と熱く語る。
 この台詞には、自分たちだけではなく観客もその他あらゆる人たちをも巻き込むある幸福感と、一歩間違えばとんでもない世界が実現するかもしれない恐怖とが共存する不思議な感覚がある。おそらくそういう異常な、しかしインパクトの強さが、この芝居の奇妙な魅力なのだ。