番外随想 大震災特需



 大震災直後の古い話になるが、「Theater・ラグ・203」を観に行った時のことだ。小さな劇団で劇団員も15・16人前後という規模である。もちろんアマチュァだから劇団員たちは全員、働いている。その中で30歳くらいなのだが、父親の跡を継いで管工事の会社の社長である田村という劇団員がいる。いつも作業服を着ていて、俳優として出演しても終演後急いで現場へと夜間作業に出動するなどということもよくあった。修理を依頼する会社が終業後の夜に仕事をしなければならないからだ。
 ところが最近、彼の姿が見えない。劇団員たちも皆んな仕事が忙しくて中々稽古に出られにくい状況だという話だった。
 そこで、かの社長の消息を聞いてみると今、東北地方へ出稼ぎに行っているということだった。つまり災害復旧のための仕事が膨大にあって、行きっきりになっているそうなのだ。
 こういう特需に与っている人たちもいるわけだが、もちろんこの社長は、この状況を単純に喜んでいるわけじゃないと思うし、もしかしたら利益なしのボランテイァなのかもしれない。
 未だに復興はもちろん、被災地の片付けもままならないこのごろ、彼のことがしきりに思い出されるのだ。