演 目
虹の降る場所
観劇日時/12.1.9. 18:00〜19:50
劇団名/劇団 IHO
作・演出/林邦應 美術/福田暢秀 照明/加藤学
照明オペ/間中涼帆 音響/川口博 音響オペ/柏木博 音楽/坂出雅海 デザイン/中塚健仁
製作/IOH
劇場名/下北沢 シアター711

滑った人情喜劇

 人情喜劇と銘打った舞台であり話の展開は面白い。新婚2ヶ月で新妻を交通事故で失った男・川島淳也(=石井正則)が、身内の居ない死んだ妻の母親・奥山千鶴子(=名和利志子)を同居させて面倒を見ている。
 淳也は義理の母親・千鶴子に気を使い、慎ましく暮らしているのだが、深く静かに新しい恋人・山口悦子(=澪乃せいら)も出来ている。
義母・千鶴子もそんな義理の息子・淳也に細やかな気を使って穏やかに暮らしている。そんなとき、母親は階段から落ちて怪我をする。だが実は怪我をした訳じゃなく怪我をしたように見えただけだったのだ。
それを集まった近所の人たちが、大げさに吹聴したために騒動が起こる。母親が大けがで危篤になったことになり、親戚などの関係者が続々と集まってくる。
そこで命に別状のなかった母親は、せっかく集まったのだからと自分の希望で生前葬が執り行われることになる。
 母親は、集まった人たちの中の一人である、10年前に居なくなって今日突然に帰って来た、稔りのない芸人志望の息子・奥山牧人(=富田翔)は「通りすがりの人」という捕らえ方で無視している。
 そして千鶴子本人は、義理の息子・淳也の世話にならずに密かに老人ホームに行くつもり、だから仮病も生前葬もそのお別れの秘密の演出だったのだ。でも誰もその意図は知らない。
と、いうこの物語は、素直に見れば暖かいそれこそ人情喜劇の素質を持っている。だが実際にはそれぞれの細かなエピソードが現実味に乏しく嘘っぽく白ける。
 たとえば母親が転んで怪我一つしないのに、危篤だと偽り周りに電話するという展開に、当の母親がそれに対して全く無反応なのが不自然であり、母親の演出であるというヒントがないのだ。しかも周りが本当に大怪我をしたと思い込んだのならともかく、そうではなく、面白がって大袈裟に吹聴していたのだが、その根拠が描かれていないからこれも不自然だ。
この最初のシーンで引いてしまったのだが、さらにその後もこういう説明不足で不自然なシーンが続出する。
 準備して呼んであった施設の係員が、生前葬の取り込みで出たり入ったりする混乱は上手く使えば面白いと思うのだが……
 シチュエーションコメディとは、止むにやまれず抵抗不能のうちに混乱に陥るから、そこに人間の無意識の負の裏面が現れてそれが滑稽なのだが、このように無理に作られた混乱は面白くないのだ。
さらに芝居のテンポが遅くて退屈する。特に主役の石井正則の発声が小さくて、大人しい誠実な人柄を演じているのかもしれないが、意味不明な部分があるのは本末転倒であろう。
 折角の人情喜劇の期待は不発に終わって、残念な観劇結果であった。
 その他の出演者。小野剛民・北村易子・農塚誓志・安室満樹子・木村公一・河田直樹・八戸亮。