映 画
幕末太陽伝
観劇日時/12.1.8. 13:30〜15:50
製作/日活
制作年度/1957年 デジタル修正版/2012年
監督・脚本/川島雄三 脚本/田中啓一・今村昌平
出演/フランキー堺・南田洋子・左幸子・石原裕次郎・芦川いずみ その他
劇場名/東京・テアトル新宿

古典落語の集大成

 古典落語の傑作の一つ、『居残り佐平次』をメーンに、「廓」に関係のあるたくさんの噺を取り入れて、一遍の一大叙情詩を紡ぎあげた。
 江戸末期の庶民の、時代に巻き込まれない、開き直った力強い生き方が展開される。それは閉塞感の強い現代にあって、しかもこの映画が創られたのがもう50年以上も昔にも関わらず、今の時代を象徴しているのが、時を超越して、ひしひしと感じられる。
 立川談志のいう「落語は人間の業の肯定だ」という定義の通り、この映画の物語は、まさに江戸末期の江戸庶民の業というか翻って考えると、生きざるを得ない破天荒で力にあふれた生き方の象徴なのだ。
ちなみに出てくる落語のタイトルは『居残り佐平次』『品川心中』『三枚起証』『文七元結』『お見立て』『明烏』など、まだあったかもしれないのだが、廓という特殊な場所に繋がる庶民の生き方に関連する噺が次々と出てくる。
 だがそれは、それらの噺の一部分が引用されるだけで、噺全体が取り込まれて展開されるわけではない。だからその噺を知っている者には、いささかの欲求不満が起きるのはやむを得ないだろう。
 今の時代に、このような閉塞感を突き破るような元気溢れる物語の映画が、修復技術を駆使して新しくエンターテインメントの世界に現れたことを喜び、喝采を送りたい。
 ただ惜しむらくは、現在では理解の困難なその時代の様々な習慣や、廓の行事や、言葉の意味する内容などを、どう上手く観客に伝えられたのか、伝えなければならないのか、いささかの不安が残る。