演目 空知演劇フェスティバル
観劇日時/11.12.10.〜11.
劇場名/滝川市・たきかわ文化センター・大ホール


 二日間に亘って、空知管内の4市とゲストの恵庭市を招いて、5つの市民
劇団がそれぞれの作品で競演する企画が第二回を迎えた。その結果を報告す
る。後で聞いた話だが、このように毎年開催しているのは珍しいのではない
かということで、そうだとすれば、とても貴重な行事だと思う。
 ただ「たきかわ文化センター」というのはキャパシテーが1100人とい
う大劇場であり、使い方も難しく、少数の観客も落ち着かない。滝川市には
「たきかわホール」という2百席くらいの小ホールもあるのに何故そこを使
わないのか聞いたところ、「たきかわホール」はもともと映画館だったので、
舞台奥や袖が狭くて、5劇団の道具を短い時間で転換するのが不可能だから
ということであった。
 この矛盾を何とか解決する方法はないのかと思わずにはいられない。
 
 
演目  ありがとう 
観劇日時/11.12.10. 16:30〜17:45  
劇団名/恵庭市 Sunday Play Project  原作/石垣真里奈
脚色・演出/任泰峰
子どもの心に寄り添うお伽噺
 権威主義の教育委員とその周りを取り囲む大人たち、そして子供たち。つ
い嵌った子供たちとの遊びの中で、何かを感じた教育委員はその職を辞任す
る。
 最後の辞任挨拶のラストで彼は、子供たちとの遊びを思いだし「ニャーン」
と手招きする。
 全編、舞台両端に人数分のイスを置いて出演者が待機し、衣装を掛けるパ
イプ製の台を置いて着替えをする。
 最近こういう演出を偶に見かけるが、舞台のだだっ広さをカバーすると同
時に、舞台に繰り広げられる世界を客観視する方法でもあるのか?でもせっ
かくのその設定をうまく使っていたとは思われない。
 小学生が書いた台本を元に大きく話を広げたそうで、どこまでがその原作
かは分からないけど、子どもの遊びの話は子どもらしい飛躍や発想が少なく
ちょっと残念だが、演技者の年齢層も広く、不自然な演技も少なく、ちょっ
とテンポが緩いのが欠点だが良い舞台を創っていた。


演目  シャンプー 
観劇日時/11.12.10. 18:15〜19:15
劇団名/深川市 深川組☆48 脚本/宮田てつじ・佐藤オズマ
演出/きくちきよひろ
エターテインメントの楽しさ全開
 開業10年の美容院、若い二人(=野原綾華・小川千里)とベテラン一人の
個性の強い3人の美容師たち、そして気の良い店長(=佐藤オズマ)。経営
と技術の進歩を巡って様々な展開が繰り広げられる。店長の友人である自称
カルスマ美容師(=菊地清大)の余計なお世話に悩む4人。
 これらがマンガチックに演じられる。大勢の登場人物がテンポ良く、おそ
らくアドリブも危なげなく、エンターテインメントとしてはうまく作られて
いるが、ダンスの部分はもっと大きく広がった方が楽しいし、歌は口パクじ
ゃなく自分たちで歌って欲しかった。
 元々が美容院とのコラボ企画、美容ショウで演じたものを書き換えたもの
だそうだが、役者の当て書きのように各演技者の地を誇張した個性の強い性
格設定には職人的な才能を感じる。


演目  北の湯の里 川柳大会 
観劇日時/11.12.11. 15:00〜15:50
劇団名/美唄市 劇団 WA! 脚本/細谷康夫・佐藤知后 演出/山本牧伯
市民劇団としての限界か?
 緊張して張り切り過ぎたのか作りが不十分なのか……まず脚本が安易であ
る。落ちぶれた田舎の温泉旅館を舞台にした人情劇なのだが話にリアリティ
がない。
 東京から卒業旅行に来た3人の女子高校生。背任容疑で逃走中の某社長。
結婚と家業に悩む旅館の娘、などなど目の付けどころは悪くないのだが。そ
れらが通り一遍で展開にリアリティがないのだ。
 次に演技が嘘っぽい。オーバーアクションで如何にも演技をしていますと
言わんばかりの不自然な動きが強い。
 話の芯になるべき川柳作品が安っぽ過ぎていくらなんでもと思われる。し
かもその審査会を延々と映像で見せるのは手抜きだし、その議論も中身が薄
いのに大袈裟で閉口する。
 女優が男役をやるのはアリだと思うが、その際に納得させる設定と演技が
必要なのだが、その配慮が感じられず中途半端にやってしまったように感じ
られる。
 全体に演劇としてはいかにも未熟で、お芝居ごっこの範囲を出ない舞台だ。


演目 COLOR〜チャリダーエンジェルス「守れ!音色町」  
観劇日時/11.12.11. 16:30〜17:30
劇団名/砂川市 砂川市民劇団一石 原作/鈴木みどり 脚本/干場美恵子
演出/チーム一石
不自然な物語
 街の治安を守るボランテァの5人組、下校途中の高校生や塾帰りを心配す
る母親らを見守る。
 自転車を象徴する5色のハンドルを操って走り回ったり、それぞれの5人
がレンジャーよろしく5色の衣装で決めたりする楽しい遊びなのだが、最初
7人いたはずなのになぜか途中で2人が居なくなったり理解不能な不思議な
運びだ。
 コンビニに強盗が入った。ちょうど別件で集まった5人組という物語の着
眼は良いのだが、強盗とそのメンバーの一人とのやり取りのリアリティが全
くないのと、そのためにムダで大仰な動きが不自然で不思議な行動だ。そし
てこの舞台もやはりテンポが遅くて眠くなる。
 最初の街角の舞台装置がとても洒落ていたので期待したのだが、転換して
コンビニの店内になると、そのまるで貧相なのに驚いた。そうなると最初の
舞台装置がいかにも趣味的だったと思わざるを得ず、まったく統一性がない
ことが残念だ。


演目  思いはいつも言葉に足らず 
観劇日時/11.12.11. 18:00〜19:10
劇団名/たきかわ市民劇団 脚本・演出/イナダヒロシ
集団の在り方
 ある小さな劇団、公演を控えて劇団員の女子高校生が不祥事の疑惑で助成
金が打ち切られそうになる。それと関係があるのかどうか主宰者で脚本を書
いている雫石と連絡不能となる。
 当惑し議論が沸騰する劇団員たち。この物語は実はある作家が書いていた
私小説だったのだ。作家の経験を書いたもので、その物語が作家の執筆と並
行して展開していく。
 劇団の脚本を途中で投げ出したような形になって劇団を混乱させた原因は
何だったのか?
 不祥事疑惑の少女を、劇団員たちは信じられなかったのか?唯一、彼女を
信じた作家は、逆に劇団員たちを信じられなかったのか?
 作家には、集団とは利害関係で統制されている集団がほとんどだが劇団は
違う、何かを共有することで創られるのが劇団であり、それはボランティア
集団やNPO法人などがそういう存在で、その共有する想いを繋ぐ存在、こ
こでは演劇創造という共通の目的が無くなれば劇団という集団自体の意味が
なくなるのだという絶対的な信念がある。
 少女の疑惑を発端に、思いの分かれる劇団員たちの葛藤……少女の疑惑は、
絶対他人には言われぬ少女自身の秘密であって決して不祥事ではない。
 離婚した父親には少女が20歳になるまでは会ってはいけないという両親の
契約を、母に内緒で父に会っていたのを垣間見た人が少女売春と勘違いした
のが後で分かるのだが、これは少女の純粋を表すのかもしれないがちょっと
安易かなとも思う。
 だがついに物言わぬ少女を信じる作家は集団と決別する。少女は自死を図
るが命は取り留める。やがて作家抜きで劇団は再建されるが果たして……
 重い主題の物語を、スピードとテンポで緊迫感のある舞台を創って魅了し
た。
 どこのホールにも必ずある平台を、そのままたくさん使って組み立てて、
抽象的だが彼らの混乱する心象風景を象徴的に表現した舞台装置を造ったの
も良かった。



     
 5劇団の5つの舞台を観て、3組の劇団は、やはり市民劇団の限界が露わ
になったのだが、ともあれひたすらに根気よく演劇に取り組む姿勢は大事だ。
 たきかわ市民劇団の舞台を観れば、キチンと取り組めばキチンとした表現
が出来ることが証明されたと思うが、そこまでやるか?という疑問があるか
もしれない。楽しみにやっているのだからとも言えるかもしれない。
 深川の例はどうだろう?楽しみにやりながら一定の水準の舞台を創り出す
ことも可能なのだ……
 芸術というと浮き上がってしまう危険もあるが、表現に携わるからには、
やはり一定の覚悟が必要なのであろうと思う。