演目 アイ☆ワカナ博
観劇日時/11.11.29. 19:30〜21:40(途中休憩10分)
作・演出/イトウワカナ 舞台監督/高橋詳幸
照明/相馬寛之 音響/橋本一生 宣伝美術/本間いずみ
プロデューサー/小室明子	
劇場名/コンカリーニョ


 9月の初めに、同じコンカリーニョで上演された『最強の一人芝居フェス
テバル』の6作品の中から地元の作家、いとうわかなの2作品を、その時の
役者二人、榮田佳子と今井香織、さらに大阪の俳優である赤星マサノリと坂
口修一の二人が同じ演目で演じるという男女対決みたいな企画で、大いに期
待される。
 『0141≒3088』
  初演通り榮田佳子が演じるのだが、複数の男たちを訪ねながら、その部
 屋ごとに次々に食べまくる。行く途中の道ではガムやパンを食べ、最初の
 部屋ではパック入りの焼きそば、次の部屋では手づかみでフライドチキン、
 そして最後の部屋では炊き立てのご飯を電気釜から白御飯だけをヘラで食
 べる。
  ここではソロのときとは違って、赤星マサノリが登場して榮田と夫婦役
 で共演する。
  初演は榮田一人が3人の男を訪ねる話だったと思うが、今回の最後の男
 は夫だったのだ。しかもその男が登場する。
  榮田の女が寝室に去ったあと赤星は、女の行動を逆に辿って行く。後ろ
 向きに歩きながら赤星の男は全く女の行動を逆になぞって行く。まず残っ
 た白飯に生卵をぶっかけ醤油を垂らし直接ヘラでガツ食いする。次の部屋
 ではフライドチキンを手づかみで食べ次では鍋焼きうどんを食べ最後に我
 が家に戻って来る。
  そういう二人の同じような行動が、男にしろ女にしろ、その個人の裏側
 にあるだろう秘密の人生があぶり出されて見えてくるような仕掛けになっ
 ているのだ。
  女だけでなく男も、全く同じようなことをしていることを見ることによ
 って、人間の身勝手と同質さが浮き彫りになる。
  しかも、男の行動が、女の行動の逆転になっていて、その上で微妙にズ
 レて行くのが面白い。
  本物の食べ物を実際に大量に食べることによって、欲求不満が転化され
 ていくリアリティが実感される。
 
 アフリカ産オスジロアゲハのメス 
  これはソロを女の今井香織と、男の坂口修一で同じ脚本を繰り返して演
 じた。
  女の場合は少女の、そして男の場合は少年の、だから男の場合はタイト
 ルが「アフリカ産オスジロアゲハのオス」になっているのだが、女の場合
 と同じように退屈でしかも多少の変化が少し刺激的な、同じことの繰り返
 しの日常が延々と演じられ、やがて大人になっていく。そして、それに合
 わせてアゲハの成長。
  30分に圧縮されたら、人間の一生って単純だけども不思議で神秘な存在
 にも思えるけれども、逆に何か人生に対する一種の虚無感さえ感じられる
 気もする。
  もちろん性が違うし、特に成長するにつれて性差による台詞も動きも異
 なってくるのは当然だ。
  今井の切り口鋭いダンスのような抽象的な演技に対して、坂口の具体的
 な喋りの多いコミカルな表現の対比が面白い。
  僕の個人的な一人芝居の3分類によると、今井は第2方式である「対象
 を仮定して、その対象と演技を交わす」のに対して、坂口は第3方式であ
 る「一人で何役をも演じて劇を表現する」という特徴が色濃く出ていた。
 この方式が何を意味するのかは自分自身でもよく分からないのだが……