演目 猫と針
観劇日時/11.11.19. 19:00〜20:30
劇団名/怪獣無法地帯
公演回数/第15回
作/恩田陸 演出/棚田満 音楽/今井大蛇丸
音響操作/長谷川碧 制作/要害里奈・吉川直毅
宣伝美術/山本美里 舞台美術/濱道俊介
劇場名/レッドベリースタジオ


深層心理の会話
 高校時代に映画研究会で一緒だった5人の男女が、20年ぶりに会う。同級
生だった心療内科医スガワラの葬式だ。
 彼は温厚で篤学で患者の信頼も篤いが、実は玄関先に針を刺された猫の死
骸を吊されていた。プライバシーの裏側まで知り尽くされた患者の逆恨みだ
ったかもしれない。
 この機会を利用して映画監督になったタカハシ(=伊藤ショウコ)は、あ
る脚本を書いて集まった同級生たちの出演でドキュメンタリー映画を撮るこ
とにした。
 一同は好奇心もあって乗り気になる。台詞は知人の葬儀で哀悼の弔辞を述
べるだけだ。だが最後の一人が読んだ弔辞の最後で、それは飼い猫の弔いだ
ったことが分かってみんなは驚く。
 このスガワラ医師には一同、何らかの心の負担があった。専業主婦のスズ
キ(=荻田美春)は事業に失敗した夫の莫大な借金を快く無条件で貸してく
れて逆に自尊心を傷つけられている。
 タナカ(=塚本雄介)は、外資系の金融担当で顧客との争い事が絶えず、
心労からこの医師に相談していたが、心が正常に動かなくなって、これも逆
恨みしている。
 商事会社勤務のヤマダ(=吉竹歩)は、自死した妻との件での心痛、平凡
な会社員のサトウ(=秋庭峰之)も何かある。
 首謀者のタカハシにも高校の映画研究会時代のトラウマがある。証拠はな
いが、スガワラの明察で高校最後に撮影したフイルムが陽の目を見なかった。
それはスガワラの責任じゃない。ただスガワラの食中毒事件の処理がタカハ
シのフイルムに映ったことをタカハシが誤解したのだ。
 人間は無意識の中に他人を傷つける存在である。平凡な一生の中で、どれ
だけ人に心的な害を与えているのか……タカハシはそれを映像として記録し
たかったのだ。
 猫は針で死ぬけど、人は他人の無意識が致命傷になる時がある。すべて終
わって5人は何事もなかったように再会の一日を終えて別れていく。
 こういう物語を、まったく舞台装置のない狭いスペースで男女5人が会話
だけで淡々としかし軽快に話を進めながら、結果として重いものを残して終
わったのだった。