観劇日時／11.11.13. 19:00～21:00
劇団名／イレブン☆ナイン
作・演出／納谷真大 照明／上村範康 音響／奥山奈々
美術・舞台監督／上田知 音楽／HIRO・SASAYA
衣装／上總茉奈・澤田未来 宣伝美術／小島達子・小林泉
スーパーバイザー／沢辺蕙美 制作／神馬千代子
劇場名／コンカリーニョ
古い男の美学
小さな町工場を経営している兄・イチタロウ（＝納谷真大）とその妹・ツ
キコ（＝今井香織）。ツキコはイチタロウの有能な助手で事務方も一手に受
け持つ才媛だが、兄妹は両親も係累もなく、たった二人だけの絶大な信頼関
係の上に成人した。
工員たちは、ガキみたいな自分勝手で調子のいい青年工員・イサム（＝江
田由紀浩）、おばちゃん丸出しの女工員・フサエ（＝小島達子）、そして働
き者だが言語障害のあるおじさん・ヤスオ（＝本吉純平）の三人だけだが、
後にナサから注文が来るくらいのいわゆるワンポイントに優れた手工業の一
つの典型的零細企業だ。
出入りの商人・マルカワ（＝野村大）はほとんど友達感覚でその新婚の妻
は片言で在日外人の美人・マルチダだ。このあたりは大袈裟とも言えるお笑
い的なシーンである。
そして飼い犬のハナコはほとんど独白だけだし、口の利けないおじさん工
員とだけ普通の会話をする。初めは犬とは判らないからイチタロウが工場に
は来るなといったり、娘と呼んだりお父さんと言ったりするから混乱する。
だがやがて様々なシーンから犬だろうと推測されるに至る。
さてこの工場では毎年、６月になると３人の派遣の季節労働者が来る。今
年は倍の６人が応募してきた。
その中の年長者・シュウジ（＝杉野圭志）は自己紹介で、妻の父の会社を
継いだが経営不振で倒産、妻とも別れて季節労働者として働きに来たと言う。
自信満々のお兄ちゃん経営者、しっかり者の妹、そして工員たちと季節労
働者たちとの時間が過ぎる。
ナサとの契約書の作り方に四苦八苦する無学の兄・イチタロウ、だが何と
か進めたい。それを察した倒産社長のシュウジは何とか極秘に手助けしたい
と思う。だが深夜、シュウジが密かに図面を盗み出すのは何故か？
実は、シュウジとツキコは高校の同級生でツキコの片思い、３年前に偶然
に再会し、その時には彼には妻がいたので、そのまま終わったのだが、最近
状況が変わって彼はツキコの工場の後継者となっても良いと思ってツキコの
紹介で来たのだった。
だが二人ともそのことは秘密にしていた。彼は実は慰謝料が払えず離婚は
不成立だったのだ。だから図面をコピーして金を入手して正式に離婚がした
かった。だがそれはもちろんツキコには内緒だったのだ。
犬のハナコの通報によりシュウジはイチタロウに捕まる。シュウジは土下
座して謝罪する。告白を聞いてイチタロウは苦悩する。もちろんツキコは何
も知らない。
そしてイチタロウは決心する。何も知らないツキコの愛を完成させてやり
たい。イチタロウは、辞退するシュウジに無理やり図面を渡す。その思いを
痛感したシュウジは篤い思いを持ってわが罪の図面を受け取る。
この図面が無ければ工場は破産する。イチタロウはすべてを自分の無能と
して背負い込み全員に工場閉鎖を告げ、処分して全員の何年かの生活を保障
して、何も知らずに兄を恨んでシュウジと去るツキコを万感の思いを持って
送り出す。
すべてを知りながら謝罪の気持ちだけで後ろ髪惹かれる思いの彼・シュウ
ジ。言いたいことを絶対に言わない二人の古い男の美学……
古いと言えばまるで時代錯誤の物語、だが賑やかだが密閉された人間関係
の縮図のような空間での古い男の美学は、失なわれた人間関係の強い繋がり
を強烈に訴える、最近珍しい物語であった。
出入り商人の妻、犬、５人の季節労働者は配役表がないので出演者だけ紹
介する。
小林泉・生水絵理・石川藍・児玉由貴・塚本智沙・白鳥雄介・能登屋駿介。