演目 トランス
観劇日時/11.11.6 14:00〜15:50
劇団名/座・れら
公演回数/第5回
作/鴻上尚史 演出(指導)/鈴木喜三夫
舞台監督/戸塚直人 舞監助手/寺沢英幸・堀裕幸
照明/鈴木静悟 音響効果/西野輝明・信山E紘希
道具/大内絵美子 衣装/前田透 メイク/玉置陽香
制作/大内絵美子・澤口謙・竹江維子
制作協力/青木通子 手話通訳/舞夢サポーターズ
道具協力/高田久男 宣伝美術/大内里絵子
劇場名/新札幌・サンピアザ劇場


自己確認の交錯と愛の崩壊との混乱
 高校生のとき、新任の校長の過激な喫煙規制に反発した紅谷礼子(=玉置
陽香)は後藤参三(=前田透)と謀って、吸い殻を集め、深夜、屋上にばら
まこうとする。
 そこには同じ思いの立原雅人(=信山E紘希)が居た。以来三人は気の合
う友人同士であった。
 卒業の時、参三は何かあったときには必ず三人でここで会おうと約束する。
 それから20年、うだつの上がらないフリーターになった雅人が、離人症と
いう病いの疑いで訪ねた精神病院の医師は20年後の礼子であった。週1の診
察を約束するが、次の回の前夜、酔った雅人はボッタクリバーで暴行を受け
て、それを助けたのは、その店のオカマになった20年後の参三だった。
 帰る宿を失った参三は雅人の部屋へ転がり込み、昔日の友情は参三の雅人
に対する同性愛へと変化する。
 自分をもう一人の自分が客観的に見つめているという離人症に悩む雅人は、
礼子の治療を受けながらも症状はエスカレートし妄想の世界に深入りする。
 参三の愛と礼子の献身的友情とによって雅人は少しずつ回復するようでも
あるが、今度は逆に礼子も参三も妄想の世界に入り込む。
 だがしかし、礼子と参三の妄想は雅人の妄想の中のことかもしれない。互
いの愛と裏切りの妄想は複雑に混乱して観客にも判らなくなる。
 外界との意志が不疎通の状態になった、いわゆるトランス状態になった3
人の親友たちの悲痛……
 そしてしかも、それはかつて高校生のときの屋上の記憶なのかもしれない。
参三は作家志望だったのだ……
 自分自身の脳の中さえ信じられないという不幸が、愛という人間の根底の
信頼の崩壊と交錯する。
 『座・れら』としては珍しい冒険的な題材だが、この3人の心理の裏表の
表出が深く描かれて演技的には深まった作品となって、これからの『座・れ
ら』が楽しみな舞台であった。