演目 忘れたのに思い出せない
観劇日時/11.11.5. 14:00〜16:10
劇団名/yhs	
脚本・演出/南参 舞台監督/上田知 照明/大橋はるな
音響/三浦一歩 作曲/川西敦子 小道具/後藤貴子
衣装・メイク/水上佳奈 制作/水戸もえみ
WEB/イシハラノリアキ・大塚黒 イラスト/坂本奈緒
劇場名/シアターZOO


現実の縮図としての演劇
 膝を病んで歩行困難な老婆センリ(=福地美乃)は認知症が進んで寝たき
りである。
 大学の講師である息子のガンマ(=小林エレキ)は貧乏だし、そんな母親
の面倒は見きれない。
 死んだ妻の連れ子・トオル(=岡今日子)は父親の知れない児を身ごもっ
ているが、収入の当てもないのにシングルマザーになる決心をしている。そ
のことで血の繋がらない父娘の軋轢が絶えない。
 市役所の福祉課の担当(=京極祐介)はかなりいい加減だ。派遣介護員(
=曽我夕子)は誠実だが、その研修員のゲンブ(=櫻井保英)は常に不満を
持ち、仕事も雑だが、もう一人のマスト(=三戸部大峰)は無口で不器用で
暗い陰を持つが誠実に仕事を進めようとする。
 トオルはゲンプを見てそれが別れた男であり腹の児は彼の子でもあること
を確認して愕然とする。
 インチキ新興宗教のチヨ(=青木玖璃子)は、経営する老人ホームに金銭
目的でセンリを勧誘する。そしてついにガンマは、母親センリの隠し持った
預金を無断で頭金にして母親をその施設に入れる。 
 こういう動けない老女を囲んだ人々の人間関係や社会の制度の不備やそれ
をどうにもできない息苦しい関係が重苦しく展開されて救いようのない圧迫
感が迫る。
 そこにセンリの亡夫の幽霊(=齋藤雅彰)が、センリの夢として現れるの
が何となく息抜きとなり、センリはそれを求めているような節もあり、それ
が逆に切ない。
 白い小粒の砂利を敷いた庭の中のベッドが現実的ではないのだが、逆にセ
ンリの幻想を象徴して印象的だ。
 最後にセンリの宝石箱から宝石を盗んだゲンプは、マストの誠実さに絶体
絶命となって車に身を投じ、騙されて施設に入ったセンリは帰り、トオルは
無事に出産してハッピーエンドとなる。
 余りにも絵に描いたような雑然とした不幸の種と、それがうまく収まる展
開に都合が良すぎるような気もするが、それが現実の縮小であり、演劇はそ
れを表現するのが仕事であろう。
 福地美乃の後半での緊迫した台詞が、誇張されたような息苦しさで鬼気迫
るものがあるが、誇張され過ぎたような気もしたのだが、後で聞くところに
よると、それが認知症患者の一面の現実でもあるということだった。