演目 Archives of Leviathan
観劇日時/11.10.19. 19:30〜21:20 休憩なし
劇団名/風琴工房
公演回数/code.30
作・演出/詩森ろば 舞台美術デザイン/杉山至+鴉屋
音響プラン・演奏/青木タクヘイ 照明プラン/榊美香
舞台監督/小野八着 ドラマトゥルク/大塩哲史
舞台写真/奥山郁 演出助手/元吉庸泰・沼景子・早坂彩
制作/池田智哉 チラシ画/塩崎顕
企画・製作/ウィンディ・ハープ・オフィス
劇場名/下北沢 ザ・スズナリ

巨大な悪の象徴の記録(アーカイブス・レビアタン)
 発光ダイオードで青色の開発裏話が基本である。田舎の小さな会社、校倉
化学工業では、世界的な発明といわれる熱の出ない青色の技術が開発されて
莫大な利益を得た。
 その課程を記録すべく、校倉化学の求めに応じてフリーライターの久我基
(=多根周作)は研究員たちや人事部社員たちに個別に会って話を聞いてい
くという構成になっている。
 伊勢谷茂(=酒巻誉洋)は狂信的で天才的な化学者で、会社の意図を無視
して自分の信じる、青の発光開発一筋に邁進する。もちろんこの弱小企業に
とってはその3億円にも達する莫大な開発費用は甚大な負担である。
 だが会社も世界的な発明になるかもしれない新しい技術からはなかなか手
を引けない。会社にとっては泥沼に足を捕られた感じだ。だから当然激しい
駆け引きや軋轢が頻発する。
 その課程が、久我が一人一人話を聞く度に回想的に展開される。伊勢谷と
経営陣に直結する人事部(=部長、寺井義貴・人事部員、東谷英人)とのや
り取り、ほかの研究員たち(金成均・根津茂尚・園田裕樹・岡本篤・佐野功)
等のそれぞれ個性あふれ、伊勢谷に寄ったり引いたりの対応などが、時に滑
稽であり暴力的に展開される。
 話の中で伊勢谷は、「実力を本当に伸ばすのには一般教養は不要だ。本当
に好きなことを好きなだけやっていて、そこで必要になった時に必要な教養
を学べば、本当にその教養が身に付く」という教育論まで語られる。
 ラストシーンで、唯一人、狂気の天才・伊勢谷を理解する別の意味での天
才肌の研究員・日下の、屈辱の自己卑下とも言える述懐は、仄かに暖かい人
間のあり方を感じさせる。
 さてこの物語はすべていわば様式的に演じられる。トップシーンは背景に
整列した全登場者が鋭いBGMによってダンスのような椅子取り合戦で開幕
し、一人が久我と話を始めると全員は舞台の3面に待機し、話の展開に応じ
て登場するというまるでお能のような形式で、今までにもこのスタイルは何
度か観たことはあるが、規模が大きい。
 このBGMは上手舞台端にエリアを作って一人のミユージシャンが数種類
の楽器を演奏する。
 舞台背景は、上・下・ホリゾントの3面一杯に細くて黒い木の骨で作った
枠のような天井まで届く透き通しの棚に、たくさんの書籍や実験道具などが、
置かれている。
 そしてホリゾントの手前にも同じ棚があり、その裏が透けて見えるのにそ
こが楽屋の役をしており、衣装や小道具などの取り替えなどを行う。すべて
世界はお見通しということなのか?
 風琴工房の魅力充分な舞台であり、それを堪能した一夜であった