演目 アパッチ砦の攻防
観劇日時/11.10.08    13:30〜15:40
劇団名/劇団東京ボードビルショウ
主催/旭川市民劇場40周年
作/三谷幸喜 演出/永井寛孝
劇場名/旭川市公会堂

無理設定のコメディのリアリティ
 シチュエーション・コメディというのは善意の人物が自分の意志とは逆の
苦境に追い込まれて、何とか打開しようとしても、益々状況が悪化する展開
に同情しながらもついその運の悪さに笑ってしまう。という笑劇だと思って
いる。
 この芝居の登場人物たちは、避けようと思えば避けられる状況なのに、わ
ざとのように飛び込んでいく。そしてますます状況を悪化させて自業自得な
のに反省もなく突進する。その可笑しさはバカなと思いながらも笑わずにい
られないのは、その意志が人間の弱さの現れだからだ。
 事業に失敗した男・鏑木研四郎(=佐藤B作)は別れて住んでいる娘が婚
約した報告に来るという連絡をもらって急遽一計を案じ、3日前まで住んで
いて半値で売り払った豪華マンションの一室に電機屋を装って潜り込む。
 当然そこを新しい住処とする男・鴨田巌(=角野卓造)が戻って来て騒動
が起こる。
 何とか誤魔化そうとする鏑木、強く弱く疑いながらも何となく騙される人
の良い鴨田。
 鏑木の現在の恋人フイリッピーナ・ビビアン(=小林美江)や前妻のサダ
(=あめちくみこ)、娘のちよみ(=金澤貴子)そしてその恋人(=京極圭)、
その両親(=市川勇・市瀬理津子)。
 さらに鴨田の妻(=沖尚未)、娘(=山本ふじこ)そして不動産業者(=
佐渡稔)、本当の電機屋(=斉藤清六)、隣家の自治会副会長夫妻(=たか
はし等・フジワラマドカ)など両家にまつわる多数の人物が次から次へと入
れ替わり立ち替わりに登場して大混乱する。
 どこかで逃げ出せば一巻の終わりなのだが、それぞれに特に鏑木の娘とそ
の婚約者に対する見栄だけが、この大騒動の原因である結果なのだ。
 一方、ねらわれた部屋の新しい主人にも弱点があったのだ。彼もそれを隠
蔽したいが為に弱気になっていたことが分かってくる。
 でも誰かが何処かで引いていればこんな混乱は起こらなかったはずだ。そ
れが人間の弱さで滑稽で他人事ならずに自嘲の苦い笑いが、あまりにもバカ
バカしいので哄笑となって爆発する。 
 さまざまな仕掛けが、最後に意味を持って露見していく過程が鮮やかで、
やっぱりそうきたか、というべきかもしれない。
 ビビアンが実は秋田生まれの純粋日本人で、不器用から外人の真似をして
いるうちにフイリッピーナになったなどという自虐打ち明け話は真実味があ
るし、大学教授というふれこみの彼氏の両親が実は居酒屋の亭主だったのも、
どっちもどっちで、観客を安心させ笑わせる。
 最初は僕の思うシチュエーション・コメディとはちょっと違うと思い、設
定に無理がありすぎると思って観ていたが、これはこれで職人的な面白さを
満喫できたのだった。
 最後に接待の為に注文した出前の寿司が、不要になってから届くと予想し
ていたら、その通りになったので密かにガッツポーズであった。