演目 メガトンキッス
観劇日時/11.10.4. 19:00〜20:40
企画・制作/札幌ハムプロジェクト・ナマイキ公演
公演回数/01
作・演出/すがの公 音響/天野さおり 照明/小川しおり
劇場名/アートスペース 201 5階E室

迫力充分の家庭問題劇
 幼稚園の遠足に出かけるバスが出発前にジャックされた。園児5人(=赤
谷祥太郎・和泉諒・木村歩未・牧野千里・斉藤詩帆)と保母さん(=楢山美
樹)を乗せたバスが、見送りに来ていた保護者たち(=全員、園児たちとの
二役)の面前で乗り逃げされたのだ。
 駆けつけた刑事(=木山正太)は、犯人は3日前に脱獄した殺人容疑者の
可能性があると推定する。
 あくまで無邪気な園児たちはバスの中で大騒ぎしているが、残された保護
者たちはパニックとなる。
 その両者を交代に見せながら物語が展開する。双子の園児がいるから計4
組の家庭の様々なトラブルや事情が徐々に明らかになっていく。
 一種の家庭社会劇を大騒動の笑劇としてエネルギッシュに描かれる。
 園児と保護者は同じ役者が上っ張りのスモックだけを着たり脱いだりして
両者を演じるし、双子は父母として演じる。
 1時間40分を大車輪で笑いのうちに駆け抜けるのだが、少々の疑問もある。
 まず第一は、専属の運転手(=後藤克樹)が居ながら、乗り逃げされたこ
とだ。これはあり得ない設定として笑劇だから許されるのかもしれないが、
不自然だがその後の物語展開がリアルなのでいつの間にか忘れている。
 次に、保護者や運転手たちが刑事を騙してパトカーや白バイに乗ってバス
を追いかけるのも唐突でリアリティに欠けるのだが、これも笑劇の1手法と
して許されるのかもしれない。
 しかし、バスの走行やパトカーや白バイの疾走感は、若さのエネルギーで
十分感じられたのは面白かったし、狭い舞台の30人前後の観客の目の前で迫
力充分で、家庭問題劇の娯楽作であった。
 妹の保護者代理として来ていた高校生の姉が、気分の悪くなった別の園児
の母親役を演じてバスの保母と電話で対応するのだが、その経過が説明不足
でギャグかとも思ったが真面目なシーンなので戸惑う。
 直前に車内を撮影していた写真を現像依頼に行った夫婦不仲の妻が、写真
屋さんと同行した別の母親とに対する対応が豹変する必然性が、これも説明
不足で唐突に感じる。
 今一つは、ジャックした女(=飛世早哉香)が保母や、追いかける保護者
たちの必死の説得にも関わらず、頑としてバスを止めないことだ。
 その理由がサスペンスの様相を呈して、ラストに期待するのだが、結局、
愛娘の手術時間に間に合わせることだったというのは些か拍子抜けがする。
 タイトルのキッスは、むしろキッズではないのかと思われる。幼児の存在
はその親に対する唯一無二の力であろう。
 少々の間違いや説明不足や話の食い違いなどは意識的に無視してぶっ飛ば
し、エネルギッシュに若い力を出し切って、家庭の裏面を暴き出してみせた
暴力的な笑劇だった。