演目 父と暮らせば
観劇日時/11.9.27. 19:00〜20:30
劇団名/こまつ座
公演回数/第九十四回公演
作/井上ひさし 演出/鵜山仁
音楽/宇野誠一郎 美術/石井強司 照明/服部基
音響/深川定次 宣伝美術/和田誠 方言指導/大原穣子
演出助手/西本由香 舞台監督/宮崎康成
制作/井上麻矢・瀬川芳一・谷口泰寛
劇場名/深川市・文化交流ホール み☆らい

原爆被害者の複雑な心境
 この物語はとても良く知られているので、その芯だけを紹介する。
 1945年8月、広島上空で爆発された世界最初の原子爆弾は、直接間接の悲惨
で大きな犠牲者をだした。
 その一人で23歳の娘(=栗田桃子)は、たった一人の肉親である父親(=辻
萬長)をはじめ、多くの親友や知人たちの残酷な最後に接した。それから3年
後、焼け残ったボロ屋で一人暮らしの彼女は図書館に勤めながら、ひっそりと
暮らしている。
 彼女は父親をはじめ、すべての死者に対して、自分だけが助かったことにた
いして自分の責任外のことであるのに罪悪感が強く、自分だけが生き残ったこ
とについて思い悩み、ひたすら日陰の暮らしをせざるを得ない心境であった。
 そのころ偶然、図書館の利用者で真摯な理学者・木下に仄かな愛を感じる。
 もちろん彼も次第に愛情が強くなってくることが、彼女の言動から察しられ
る。
 それを知った父親は、幽霊となって表れて、死者の分まで強く幸せに生きろ
と激励する。
 だが彼女の心は変わらない。そして何日か……その都度に現れる父親の説得
で少しずつ彼女の心は和らぐ。
 死者と生者である二人の愛情が創り出す暖かい物語の中に、理不尽な戦争と
原爆に対する強い抗議が滲みだして、思わず胸が熱くなり、ハッピーエンドを
暗示する爽やかな幕切れにホッとする。
 3年経っても雷鳴に原爆再来の悪夢をみて脅え震える娘と、それを心配して
幽霊となって現れ、慰めながら平穏な日常生活を再現する父親の二人。それは
まるで親子漫才のようなやり取りと、互いの深い愛情の暖かさ。
 二人の広島弁が、広島の日常を全く知らない我々にも、この物語に託する現
地の思いをじっくりと味あわせてくれて楽しくも哀しい。
 分かり易い物語の展開の中に、不条理に対する強い憤りと肉親から広がる愛
情のじっくりと湧き出る暖かさを充分に感じさせる、評判通りの舞台であった。