演目 札幌教育文化会館短編演劇祭
 8月26日から3日間に亘って教育文化会館の小ホールを舞台に、5月に脚本
審査を経て入選した8チームが2日間、それぞれ4チームずつが予選競演を行
い、決勝進出2チームと、前年優勝の『イレブン☆ナイン』、それに愛知県長
久手町で毎年開催される短編演劇祭『劇王』の昨年度チャンピオン『劇団あお
きりみかん』の2チーム、合計4チームで今年の優勝劇団を決めるというシス
テムである。
 予選は観客の投票だが、もちろん4チーム全部を観ないと投票権はない。だ
がやはりアウェイのチームは不利であり、組織票めいた票が当然でてくる。
 決勝戦は観客投票を基礎に二人の審査員=佃典彦(劇作家・俳優・劇団B級
遊撃隊主宰)、土井巧(水曜どうでしょう初代プロデューサー・HTBプロモ
ーション常務取締役)の助言がある。
 僕の感想はやはりホームチームが圧倒的に有利なのと、この演劇祭のコンセ
プトに合わない作品は不利なのではないのかと思ったことだ。

 演目2 科人
劇団名/天然ポリエステル(埼玉県)
作・演出/高原フヒト
出演/小島菜奈子・岡雄一・大久保裕太・菅原賢人・谷沢龍馬
無力感に苛まれるひとたち
 傷付いた人々、それはTVの中だけでしか活躍できないヒーローたち。どら
えもん、アンパンマン、そしてバイキンマン。
 自分たちの使命に絶望して病院へ来る。ところがここでも院長や看護師たち
のゴタゴタが明るみに出て、すったもんだの挙げ句、誰が父親か分からない看
護師の胎児に希望を見い出す。
 劇団自身がコメントしているように、これは震災後の日本で露出した人々の
思いの実情だ。
 大事なところで力を出し切れないのに一方、小さな個人的な感情に振り回さ
れるのも日常の現実だ。
 翌日の劇団『yhs』の『救急』と、偶然だがとても似ているのが気になっ
た。

 演目3 朝においしい紅茶をどうぞ 
劇団名/TUC+KYOKU(札幌市)
作/橋本一兵 演出/滝沢修
出演/高橋千尋・斎藤もと・金野翔太・森三成子
少年の心の闇
 母親は少年との朝食の準備中、息子はまだ起きてこない。TVが近郊で起き
た幼女惨殺事件を伝えている。
 そこへ母の妹のアル中で生活破綻者である少年の実の母親が、暖かい紅茶と
朝飯を求めてやって来る。
 やがて起きてきた少年は、礼儀正しく気が利くのだが一言も口を利かない。
この少年は文楽式二人遣いの人形なのだが、きちんとしているのに毒々しい真
っ青な顔に彩られている。
 おそらくこの少年は幼女殺人の犯人ではないのかという想像ができ、不気味
な人間関係と、この少年の心の闇が浮かび上がる。この役を人形にした意図が
痛いほど感じられて少年の心が哀切である。

 演目4 みんな☆おんなじ! 
劇団名/アトリエ(札幌市)
作・演出/小佐部明広
出演/柴田知佳・小山佳祐・小池瑠莉・信山E紘希・田村貴大
集団の安堵と恐怖
 昔クリスマスなどによく酔っ払いおやじが被るような眼鏡と鼻だけの仮面。
それを着けた二人の男女。チャという挨拶で仮面を取ると、彼らは夕べ見たT
Vの話題で盛り上がる。だが話を無理に合わせているような節も感じられる。
 続いて可愛い猫がいて可愛がっているうちに、良く見ると可愛くないので苛
めてしまった話になる。
 なぜか二人は無意味なような同じ動作をする。微妙にずれながらも一人が頭
を掻くともう一人が同じ動きをする。
 だんだんと、同じ仮面の人が増える。そして延々と同じ話を繰り返し、同じ
ように見える動作を繰り返す。
 その会話は、いわゆる若者言葉であり「ナンカ〜」「チョウ(接頭語)」
「ダヨネ〜」「ダカラ〜」とダラダラと続く。
 話される話題も、たとえばTVのドラマにしても「台本がいいよね〜」「ヒ
ロインがめっちゃ可愛いよね〜」「あれヤバイよね〜」「感情移入するよね〜」
「続編、見たいよね〜」などと、表面的で一般的なことばかりで、内容には意
識的なのか考えが及ばないのか、全く発言が無い。
 突然、一人の女性がこのサークルを抜け出したいと申し出る。自由になりた
いという理由だ。
 みんなは反対する。それは強制的ではないがやんわりと、和を壊して良いは
ずはないと口々に口説く。そして感情が激してくると、揃った動きが大きく激
しくなる
 やがてみんなは一斉に去り、一人残った女は自分の顔を手鏡に映して頬笑む。
だが彼女は崩れ落ちる。
 この若者言葉による無駄な会話の繰り返しや、無意味な身体の動かし方は、
劇団『チェルフィッチュ』の演技システムに似ているという感想が多く佃氏も
そのことを指摘した。だが僕は基本的に違うと思うのだ。
 『チェルフイッチュ』のそれは対話や討論拒否の表明だし、『アトリエ』の
それは、集団を維持するためのツールとしての会話であり動きなのだ。だが視
覚的にも会話の仕方にしても酷似しているのは事実である。だからこれは単な
るエピゴーネンではなく、良くできたパロディではないのかと思う。

予選2日目
 演目5 まずは二人 
劇団名/パセリス(東京都)
作・演出・出演/佐々木拓也
出演/大石洋子・及川陽葉・神谷はつき・佐藤ユウ
都合のいい話
 喫茶店で男を待つライバルの女が二人、結着を付けようとしている。空席待
ちの女性がくるが彼女も似たような境遇だ。その告白を聞いた二人の女は、男
に絶望し男を諦めて帰る。
 すると次に来た女は、この手で次々と7人のライバルを消してきたと自慢す
る。
 まったく男に都合のいい話で、だが広く解釈すれば人間なんて所詮、弱肉強
食そんなものさ、と虚無的な心境にもなる。
 風俗喜劇としては上手く纏まってはいるが、それ以上のものは感じられない。

 演目6 救急 
劇団名/yhs(札幌市)
作・演出/南参 
出演/岡今日子・櫻井保英・曽我夕子・南参・藤谷真由美
危機の日本の現況
 真夜中の救急病院へ駆け込む腹痛の女患者。二組の医師と看護師は、患者そ
っちのけで個人的でバカバカしい些細な問題で争っている。
 何時までも手当はおろか診てもくれない。ついに逆上した患者は全員を叩き
のめした後、力尽きて倒れる。
 我に返ったかと思われる4人も、ただ「がんばれ」と叫ぶだけだ。そして最
後に医者は携帯で救急車を呼ぶ。
 日本の現況そのものをシンボライズさせているわけだが、舞台はとてもリア
リティがあって、結局そういうものかと妙に納得させられる。悲しいがそれが
現実なのかも知れないと思うと怒る気も失せそうだ。

 演目7 そそのかされて
 
劇団名/Words of Hearts(札幌市)
作・演出/町田誠也
出演/大賀明子・高橋嗣郎・最上朋香・町田誠也
荒唐無稽で底の割れた喜劇
 一見、仲睦ましいがW不倫らしい若夫婦の朝。互いに極秘の殺意を実行に移
そうとしているらしい。
 そしてついに夫は妻の相手らしい男の手助けで射殺されるという真実味の薄
いストーリィ。
 だから話の内容に無理があって現実味が乏しい。たとえば、浮気をしている
亭主が妻を毒殺しようとする経過が弱すぎる。妻と彼女とをどのように評価し
たのか具体性がないというのが致命的だ。初めに結論ありきなのだ。
 その他、ピストルや変な中国人、浮気の相手、妻の無警戒さは計算なのか事
実なのか?など現実味が薄く空虚で話に深みがなく展開に乗れなかった。 

 演目8 アイランド 
劇団名/ヒトリコト(札幌市)
作・演出/内田佳音
出演/荒川衣愛・斎藤寛子
何もやらないこと、何かをやること、
 海岸の砂浜らしい場所、真夏の午後、倦怠のひととき。靴を失くした女、色
んなたくさんの綺麗な靴があちこちから降ってくる。
 別の女が出て、一つずつ丁寧に靴を片付ける。その彼女も退屈な同じ一週間
の繰り返し、何をやっても何もしなくても時間は同じに過ぎていく……
 やがて夜、雨が降ったらしい。一人残った女は傘を差して砂浜に蹲る。
 台詞はないに等しいから、これは劇というより立体詩とでも言おうか。劇詩
というジャンルはあるが、劇と詩とは別の表現でそのコラボレーションはなか
なか難しいのだ。


     ☆

 以上7編の他1編が予選出場で、8編中、後の1編は僕が直接かかわってい
るので紹介を避けた。何らかの形で意図とその経過とを公表したいとは考えて
いる。
 初日からは『劇団アトリエ』の『みんな☆おんなじ!』が、二日目からは劇
団『Words of hearts』の『そそのかされて』がそれぞれ決勝進出、そして
28日には昨年の優勝チーム劇団『イレブン☆ナイン』の『俺はジャッジャー!!』
と、愛知県の短編演劇祭『劇王』の昨年度優勝チーム『劇団あおきりみかん』
の『合戦』の4チームで競演された。
 以下、『イレブン☆ナイン』と『あおきりみかん』の2作品を観てみよう。
 選出方法や演劇祭のコンセプトなどいろいろな問題はあるけれども、それを
前提に参加したのだから今はその結果に素直に従って決勝参加作品を鑑賞した
いと思う。
 なお予選勝ち上がりの2チームは同じ演目での上演であって、当日観た感じ
では格別に違った感想は出なかった。翌日だから変えるのはおそらく不可能だ
ったと思われる。ただ『みんな☆おなじ』が予選よりも決勝の方がたっぷりと
演じられていたような気がする。


 決勝 
 演目 俺はジャッジャー 
劇団名/イレブン☆ナイン
作・納谷真大 演出/イレブン☆ナイン
出演/納谷真大・杉野圭志・今井香織・小島達子・江田由紀浩・
小林泉・生水絵理・石川藍・児玉由貴
熱血役者の前進姿勢
 映画に出演中の演技至上主義の中年役者、若い者を説教しながら老骨に鞭打
つ役者魂。
 主演者に不都合が起こり、彼は代役でショッカーを演じる。つまり彼らが出
演していたのは何と悪を退治する戦隊ヒーロー映画だったのだ。映像まで使っ
た大スペクタクル。
 仮面を脱ぐと彼は禿頭だった。そしてバイト先の居酒屋からは遅刻を責める
電話が……この年になって理想に向かって激しくチャレンジする敢闘精神は爽
快である。

 演目 合戦 
劇団名/あおきりみかん
作・演出/鹿目由紀
出演/手嶋仁美・松井真人・山中嵩敬・山内庸平・鹿目由紀
闘うべきか?
 彼を待つ喫茶店で起きた大騒動、織田信長に一騎打ちを挑まれる。迷う彼女。
 彼女の脚を水道管に見立てて、その改修を進める技術者。彼女が帰依するあ
る精神修養団体の先生、またその別の先生。そのインチキ臭いテキスト……
 家康や武将や果ては彼との未来の息子やハチャメチャな登場人物が彼女を悩
ませる。
 フト気が付くとテーブルには彼が居て、映画を観に行こうかとなる。彼女の
一瞬の夢か幻想か。
 シードされた、この2作とも多大な制作費用と膨大な人海戦術で創られたエ
ンターテインメントである。