演目 さようなら
観劇日時/11.8.6.
劇団名/大阪大学・ロボット演劇プロジェクト
脚本・演出/平田オリザ
テクニカルアドバイザー/石黒浩(大阪大学&ART石黒浩特別研究室)
出演
アンドロイド(ジェミノイドF)動き・声/井上三奈子(青年団)
女/ブライアリー・ロング(青年団)
ロボット側ディレクター/力石武信(大阪大学石黒研究室)
舞台美術/杉山至 照明/西本彩 衣装/正金彩
音響協力/富士通テン(株)
制作/野村政之
製作/大阪大学石黒浩研究室・ART石黒浩特別研究室・
(有)アゴラ企画&青年団
運営協力/音響・照明・舞監助手/cube garden
劇場名/cube garden


ロボットに演劇させることとは?
 この演劇はロボット(アンドロイド)と人間とが演技する演劇である。
 話は、病弱で寿命の迫った娘に話し相手として父親が買ってくれたアンドロ
イドのジュミノイドFと、死を目前としたその一人の女との対話劇であり、現
在のアンドロイドがどこまで出来るのかという実験演劇でもあるらしい。
 この話、5年前に当時中学3年生だった五十川志織が書いて深川市民劇団が
初演、その後好評のために何度か再演している『空を見上げて』に設定が類似
している。
 『空を見上げて』は、両親が共働きで孤独な少女に買い与えたアンドロイド
が、少女と一緒に成長して心を持っていくという物語である。もちろんこれは
アドレッセンス前期の少女たちの微妙な心理の葛藤を描いたもので、本質的に
は『さようなら』とは違う。だが、一人の女(少女)とアンドロイドとの感情
の交流という点では酷似しているのだ。
 さて、『さようなら』では、ジュミノイドFは座ったままで、相手の発言に
応じて表情と相槌や上半身を傾ける程度の動きしか出来ない。それらの動きは
かなりリアルだから最初は不気味な感じがするが、やがて感情移入してくる。
 そういう展開になるにつれて、ジュミノイドFが立ち上がったり歩いたりし
ないのが、技術的にはまだ無理なのかも知れないが、とても焦慮感が強い。
 人造人間の研究とは、現実の人間の精神活動と肉体の動きとの関連を研究す
ることだというアフタートークが強く印象的であった。
 そして人造人間は、コミュニケーション技術の向上に大きな力を持つという
ことでもあった。
 だが僕のアンドロイドに対する関心は、究極のアンドロイドはついに精神・
心を持つのだろうか?という一点に尽きる。
 もともと19世紀にチヤペックが描いた戯曲『ロボット』だってそもそも人造
人間が心を持つというテーマで書かれていて、今だってそれは古くて新しい課
題であると思っている。
 この舞台をみていると、人形の質感や表情などはほとんど現実の人間そっく
りだが、前途は遥かな感じだ。
 もう一つ気になったのは、声が別の場所からスピーカーを通して聞こえるこ
とだ。これは今の技術でも、この人造人間の口から出すことは可能ではなかろ
うか?という疑問が強かったのだ。