演目 櫻井さん
観劇日時/11.7.18.
劇団名/MCR
作・演出/櫻井智也 照明/稲田桂 音響/橋本一生 
制作/塩田友克・佐々木瑠奈
劇場名/シアターZOO

シニックな世界観
 街の広場に一基の銅像らしき物が建っている。それは櫻井さんと言われて、
この地域の古い功労者らしいのだが、ラフなシャッツ姿の兄ちゃんみたいな若
い男で、そんな権威は微塵も感じられない。
 この銅像の周りで様々な騒動が起こるのだが、その都度、この動く銅像(=
櫻井智也)は、その騒動の中の一員としても登場する。
 最初に起こったのは、田舎から櫻井さんを慕ってやってきたアキヨシ(=江
見昭嘉)が、周りの人々の櫻井さんに対する冷淡さに対しての正義感からの、
突飛な反抗による偶発的自殺事件であり、三人の刑事(=おがわじゅんや・上
田楓子・北島広貴)の責任のなすり合いが、まるでほとんど喧嘩腰のナンセン
スな罵り合いとなって観客は爆笑するし、一転するとそのアキヨシの死体はふ
て寝している愚兄(=小野紀亮)であり、その賢弟(福井喜朗)と、愚かな母
親(=伊達香苗)との居る家庭で、櫻井さんは怒るだけの無関心な父親である。
 そして愚兄が憧れる俗な作家の櫻井さんは、兄と非生産的で無意味で実りの
ないやり取りで大笑いさせたり、編集者の堀さん(=堀靖明)とも相変わらず
非生産的で無意味で、お互いを利用しようとするだけの喧嘩腰の口論だったり
する。
 つまりこの櫻井さんの銅像の周りで起きる様々な事件や騒動は、どうでもい
いことのようでもあり、どこででも起きるような本人にとっては重大なことで
あっても、傍からみれば実にバカバカしく滑稽なことでしかない、といういか
にもシニカルな世界観である。
 結局、古い権威者も裏を返せば単なる平凡な一人の男だとでもいうことなの
か。
 この世の全てがそうであるのかどうかは分からないのだが、そういう見方は
ある種、健全な見方なのであろう。