後 記

コントと短編演劇            11年6月21日
 コントと短編演劇とはどう違うのか?ということをずっと考えて
いた。それが演劇の本質とどう関わるのか?という疑問はありなが
ら、やはり演劇を観る上で僕にとっては重要な一つの関門であった
のだ。
 人間の心とその繋がり方(社会・世界)を、本音でそのままに表
現するのが「演劇」であり、過大に誇張して表現するのが「コント」
である。と言う風に一応の定義をしてみた。
 だが何ともすっきりとしない。いろいろと考えてみたのだが、つ
いに手に余った。
 それで、こういう理論に真摯に対応してくださる『シアター・ラ
グ・203 』の主宰者、村松幹男さんに思い切って伺ってみました。
次にそのお返事の全文を掲載します。

     ※

 コントと演劇について、他の方に聞いてみたり、少し調べてみた
りしました。
 ご存知かもしれませんが、conte はフランス語で、もともとは物
語るという意味のようです。それが、「意外な筋立てや結末を持つ
軽妙で機知に富んだ短い短編小説」を指すようになり、そのような
(意外な筋立てや結末を持つ軽妙で機知に富んだ)寸劇に対しても
conte という言葉が使われるようになったようです。
 したがって、コントと演劇を区別することに違和感を持つ方もい
らっしゃるようです。つまり、コントは演劇の1ジャンルというと
らえ方です。「別役実のコント教室」の「1日目」の章を読むと、
別役さんはコントを喜劇の一ジャンルととらえているようです。
 「そこで、まず手はじめにこの教室では、コントの書き方を学ぼ
うということなんです。コント。知っていますね。寸劇です、笑う
ための。」(p11)

 しかし一方では「コント」と「演劇」は違うと感じている人もい
ます。そのような感じを持っている人は、私を含めてですが、お笑
いの「コント」と「演劇」は違うという言い方がより正確な言い方
になるかと思います。とは言っても、現実的には実に芝居がうまい
なぁと思わせるお笑いコントグループがあるのも事実です。

 というわけで、コントと演劇を短い言葉で語る(もしくは定義する)
のはなかなか難しい問題だと思います。

 少し逃げの表現ですが、こんな言い方の方が、私の考えに近いと
思います。
 「『演劇』は、人間の心とその繋がり方(含む社会・世界)を様々
な方法論で表現するが、お笑いの『コント』はそれを、主に笑いを
取ることを目的に、往々にして過大に誇張して表現することが多い
寸劇である。」

 ※人間の心とその繋がり方(社会・世界)を、本音でそのまま表現
するのが「演劇」であり……という部分に関しましても、「本音で
そのまま表現しない」でそれを感じさせる演劇も多数あるような気が
します。

 なんだか、すきっとしない回答で申し訳ありません。
 が、……今のところはこんな感じでしょうか。
 2011年6月20日         村松 幹男

     ☆

 以上ですが、僕が想像していたよりもずっと、すっきりとしてい
ます。そもそも僕がその違和感を感じたのは『別役実のコント教室』
を読んだのがきっかけだったのです。
 この本を読んで、どうしてもコントと短編演劇の区別を知りたく
なったのが発端でした。
 村松さんもおっしゃっているように、僕もお笑いの「コント」を
本来のコントとして考えていたような節があって、そもそも、その
間違った概念にとらわれていたのが不審をもった大きな原因だった
ような気がします。悪い先入観念が妨害していたのでしょうか?
 本物のコントは、お笑いの「コント」とは本来違うものだという
風に考えると実にすっきりとします。
 それともう一つ、改めて確認されたことは、「本音でそのまま表
現しない」でそれを感じさせる演劇も多数ある。という部分です。
それもうすうす感じていたことではあったのですが、今まさにその
ことをご指摘頂いたことはとても有意義でした。
 考えれば極めて幼稚な疑問だったのですが真摯にお答えいただき、
改めてお礼を申しあげて皆様にご紹介いたします。