演目 喋らない人・オムニバス
観劇日時/11.6.3.
劇団名/しろちゃん
公演形態/S1シアター北大祭
上演回数/13回
作/松下ふさ子 スタッフ総数43名
劇場名/北大構内・教養棟隣接S棟S1教室


演目1 見えない人  演出/松本和馬  
 貧乏学生が二人で小さな部屋に住んでいる。大輔(=井上嵩之)
は男らしく剛胆だ。一方、池内(=伊達昌俊)は臆病で霊感が強い
と自負している。
 池内には幽霊(=林聖佳)が見えるのだが大輔には見えない。こ
の幽霊が傑作だ。和服で真っ白に塗った顔と痩せ型の女が目を剥く
と、それだけで意外にも怖い。
 この幽霊は、どうも間違ってこの部屋に出たらしいのだが、話は
それだけで、別にどうということもない。幽霊の存在感だけの舞台
なのだが、考えてみると「見えない人」というのは、実は「見るこ
とができない人」、言い換えると「人の心を推察することの出来な
い人」ということではないのか? 

演目2 拾う人  演出/玉置陽香   
 相思相愛の二人(=黒田英敬・石田明子)だが、女はなぜか何で
も拾ってくる。今日も猫(=桑谷麻理菜)までは良かったのだが、
何と少女(=新田絵梨)まで拾ってきた。
 気のいい男は、自分たちは横に寝て、その少女を布団に寝かせる
が、夜中に起きあがった少女は寝ている男に寄り添い、昔、自分の
不幸を助けてくれた恩返しに自分は死んで男を守ると独白して自殺
を図る。
 それを察した猫は危うく飛び込んで事なきを得る。そして少女は
逃げ去る。何も知らずに翌朝起きた二人は、少女は夜中に帰ったこ
とにする。
 これも深読みすれば「拾う人」というのは、「拾われた物や人のこ
とが分かる人」、言い換えれば「人の心の闇が分かる人」というこ
とではないのか? とも思われる。
演目3 喋らない人 (時代劇)演出/廣田裕美   
 大家(=資産家)の次男・進次郎(=相澤奎)は聾者であったが
読唇術では知らない人にはそれと分からないほどだった。妻の千代
(=柴田知佳)とは仲睦まじい。
 ある日番頭・吉蔵(=鎌塚慎平)の案内で捕り者の親分(=堀皓
詞)が訪ねてくる。藥種問屋・伊勢屋(=関屋奏斗)の一人娘が殺
されて、その下女・お紺(=根本湖斗乃)が自分の言葉が彼女を殺
したと思い込んで自首したと言う。
 お紺は幼少のころ大火事で一家も全財産も失い、不憫に思った伊
勢屋が引き取って、娘と同じ年代なので下女兼遊び友達として育て
てきたのだった。
 長じて娘は婚約が整い幸せの絶頂にあった。お紺はそれを羨み、
娘の傍で誰にも聞かれないように「死ねば良い」と呪ったと言うの
だ。
 進次郎は、娘はそんなことでは死なないと弁護する。ところがお
紺は、あなたなんかに私の不幸が分かってたまるかと叫ぶ。喋らな
い人が大事な瞬間に大声で叫んだのだ。
 「喋らない人」とは「心の傷を表現できない人」なのではないの
か? とも思う。

      ☆

 それぞれに見たように3つの演目は、それぞれのタイトルが表し
ている裏にある何かの寓意を感じさせる物語であり、全体を通して
人間の微細な思いを拾い出している洒落た感覚的な作意はとてもユ
ニークだと思う。
 だが残念なことに表現方法が未熟すぎて、せっかくのその意図が
十分に伝わらないことだ。
 劇団『しろちゃん』は学生劇団であり、その年度によって変化が
大きいのだが、総じて頭でっかちになる傾向が強く、逆に言えば、
良くも悪くもそれが若さなのかもしれない。