演目 ZAPPING
観劇日時/11.5.22.
劇団名/CAPSULE
公演回数/第10回
脚本・演出/武田美穂 舞台監督/大江芳樹 
演出補/小川尚子 選曲/TAMMY
舞台装置/下家弘 映像製作/寺元彩乃 デザイン/武田美穂
制作/竹内麻希子・水瀬友香・内田佳音・中津美晴
   松本奈緒子
出演/武田美穂・寺元彩乃・川原南風・鈴木祥子・下家弘・
松本奈緒子(映像のみ)
劇場名/札幌・中央区・演劇小劇場 BLOCH

 コントと短編演劇とはどう違うのか?純粋コントを標榜する劇団
『CAPSULE』自身も、演劇なのかコントなのか自分たちでも
判らないと言っている。
 これはコントなのか短編演劇なのか?コントと短編演劇の違いっ
て何だろうか?
 さて今日の12の短編演劇を詳細に観て、その意図と結果を考えて
みよう。


演目1 ちがうよ
 ある企業の幹部会。成績が良かったので慰労会である。社長が訓
示の後、それではこれからは無礼講で、と言った途端に、全員はい
きなり羽目を外した大騒動になる。驚いた社長の一喝でシュンとな
る一同……この1景は、単なる言葉の遊びだが、縦社会の一面を巧
く描いている。
演目2 つかない   
 まだ実績が挙がらないある企業の事務室は窓のない地下室だ。あ
る日出勤すると停電で真っ暗。それぞれ懐中電灯や非常灯、ローソ
クなどであちこちを探すと、机の引き出しに鶉を飼っていたり、ロ
ッカーに食用植物を育てていたりしている。その電気代は莫大で、
電気料が未払いで電源を切られたのだ。
 節約の本質を間違って捉えている風景で、こんなにはっきりとは
していなくても、よくみれば、よくある情景だ。
演目3 急だね   
 ある田舎の零細企業も英語を社内公用語に採用する。だけど何と
得意先は猛烈な方言の使い手であった。これも目先に囚われた早ト
チリの滑稽例。
演目4 おめでとう   
 社員採用の面接試験場。サイコロを振って出た目によって質問す
る。当たりの目で採用者が決まる。TV番組トークバラエティ『ご
きげんよう』のパロディだけだ。
 『広辞苑』を見ると、「もじり→パロディ」となっており、その
説明も、洋物と和物のちがいはあるのだが、本質的には同じようだ。
だが、「パロディ」と「もじり」とは、僕の感覚では基本的に違う
と感じる。
 「パロディ」には、そのパロディの作者の批判的視点が強いのだ
が、「もじり」はただ単にもの真似をしたり言い換えたりしただけ
だと感じる。
 だからこれは「パロディ」ではなく単なる「もじり」であると言
おう。
演目5 なかったりなくなったり   
 綱引きのパントマイム。綱を横切る人。窓拭きのパントマイム。
本職の窓拭き職人が来る。彼女はパートタイマーだった。
 これも単なる言葉遊び。
演目6 段々と優勝します   
 マンションを購入した若い女性。渡された鍵は巨大だった。新し
い住い近くの商店街で抽選に当たってもらったのはこれまた巨大な
一万円札。なぜか意味不明の優勝者に祭り上げられトロフィーやら
月桂冠やら賞状などいっぱい貰う、意味不明の優勝。意味不明にど
こかへ連れて行かれる恍惚と恐怖。
演目7 練習したんだろうね   
 サラリーマンの人生。理不尽な縦社会、その中でだんだん伸びき
っていく人生。リーマンショックで倒産、サラリーマン人生の終わ
りは本当の人生の終わりなのか?これも身近で怖い話だが普通であ
り過ぎて意外性が無い。
演目8 よかれと思って   
 独身男を慰問する4人の女、全員でごちそうを作るのだが、ネギ
がない。一人が電話をかけた先は実家の母。
 母は畑から一本のネギを採り、飛行機に乗り、トラックをジャッ
クし都会のマンションに届ける。だが出来たその御馳走は意味不明
のめちゃくちゃトッピングのうどんだった。
 これは映像作品、ロードストーリィなので映像にしたのか?だが
1本のネギに賭ける農婦の執念、その常識外の誠実さを笑えるのか?
演目9 お静かに   
 退院間近の若い女性二人。退屈して屋上から近所を双眼鏡で覗い
て品評して騒いでいる。婦長が注意してもすぐに反抗して婦長も切
れる。
 物静かな院長がきて窘める。宅配便でこの患者にゲーム機が届く。
この扱いを巡ってさすがの院長も切れて大騒ぎになる。
 自己本位の人たちの葛藤。院長だって……。人は見かけによらな
いのだ。
演目10 なんか面倒   
 レストランのメニューのさりげない面倒くささ、食前酒の勧め方
が悪いと立腹する給仕長。トマト抜きを注文したメニューに怒り心
頭の給仕長、だが彼の賄い飯はピクルス抜きだった。ラーメン屋で
も注文の設定を巡って客とのバトル。
 自己本位で、自己主張の強い人たちの軋轢とその滑稽さ。
演目11 話聞いてあげて   
 やくざの組に捉われたピザの配達人。スパイではないかと散々に
追求される。だが注文したのは親分だった。これも他人の立場を考
えない自己本位の人たちへの警告。
演目12 いろいろちいさい   
 めがね消費王国の眼鏡屋はめがね軍隊だ。この国もコンタクトが
隆盛し、めがねの需要は激減して本店から閉鎖が通告される。店長
は早期退職して離島を買い、部下たちの楽園を作ろうとする。その
設計図はすべてミニチュアみたいに小さかった。
 人の心と流行はどんどんと変化する。それにしても店長の望みは
可愛らしいほど切ないほど小さかった。これでも泣かせる小さなこ
ころだ。

      ☆

 全体に隙のない緻密な演技で、小さな心や社会の襞々を巧く掬い
挙げた短編集だが、また「コント」と「短編演劇」との違いなどと
いう、あまり必要のないような余計なことを考えている。でもこう
いうことを考えることは演劇を考えることになるのではないのか?