演目 薔薇十字団・渋谷組
観劇日時/11.4.29.
劇団名/北翔大学短期大学部 北翔舞台芸術3年目公演
公演回数/vol.1
作/清水邦夫 演出/村松幹男
音響OP/夏目静香 照明OP/市川篤
受付・撮影/阿部まりな・浅岡あゆみ・大滝健斗・尾谷拓哉
桑名勇輝・斎藤亜耶・佐々木茉莉・西出萌美・朴智恩
劇場名/札幌・南区・澄川 ラグリグラ劇場


率直で好感のもてる舞台
 何と言っても戯曲が良い。その戯曲を過不足なく表現するか、も
しくは何らかの新しい奥に潜む何者かを掘り出すのか、そこが期待
される。この舞台は、その大きな期待に最低限は応えていたと思わ
れる。
 原作は60年代の政治の季節に挫折した若者・北野通(=川口岳人)
の、15年後の定まらない人生のある瞬間に訪れた一時の光芒だ。彼
は妻に逃げられて一人切なく骨董品店を営んでいる。
 同じく挫折したが、しぶとく生きている、これは若い女・モデラ
ートの葉子(=市川薫)との偶然の触れあいから、お互いの魂の共
通点を照り返しつつ、折り返しの人生に何かを求めようとした男の
一瞬の幻想の物語だ。
 まず気になったのは、役者の若さだ。現実には現役の学生だから
若いのは当然だろうが、北野役の川口岳人は外見上、役柄の35歳と
言っても通じるくらいの貫禄はある。だが演技がいかにも若い。そ
れに比べて葉子役の市川薫は、この娼婦という生業にも関わらず瑞
々しい若さが横溢しているから多少の若さがマイナスにならない。
 あと気になったのは、芝居の途中で北野のコートが椅子のどこか
に引っかかって脱げたことだ。彼がコートを脱がないのは彼の引き
こもった心中を表している重要な行為であり、葉子と心情が繋がり
そうな時に脱いで、また心情の離れた時にもう一度、着直すのなら
ば了解できるのだが、このアクシデントでその心情を表す行為が崩
壊したのが気になった。
 北野が執着する亡くなった家族たちを象徴する電気スタンドが、
実に周到に用意されて印象的だったが、幕切れにあるべき遠くを見
遙かす無数の電気スタンドが無かったのが残念である。この劇場は
奥の深さが魅力なので、そこを大いに期待したのだったが……
 戯曲のもつ、時代を超えた人生の一断面の光景を、若い人たちが
素直に懸命に、そして丁寧に創っているのが分かる好感のもてる舞
台であった。