演目 悪いのは誰だ
観劇日時/11.4.4
劇団名/劇団アトリエ
脚本・演出/小佐部明広
演出助手/桑谷麻理菜・柴田知佳・小山佳祐・小池瑠莉
舞台装置/大竹里奈
衣装/林聖佳・増田好乃美 小道具/渡辺康平・谷内望実
照明/増田好乃美 音響/渡辺康平 宣伝美術/谷内望実
制作/桑谷麻理菜
劇場名/札幌・中央区・山口ビル アートスペース201

知的で幻想的な裁判劇
 全体は3つのパートに別れているので、そのタイトルごとに一つ
ずつ紹介しよう。
1 そこに人生があったんだ
 女子学生が夜の街で通り魔に殺害される。警察は被害者と仲の悪
かった同級の女子学生を容疑者として逮捕し捜査する。同時に二人
の女子学生もその近くで殺害された。同じ犯人とみなされて、証拠
不十分ながら容疑者の女子学生は起訴され、死刑執行される。
 まもなく真犯人が自首する。家庭環境の劣悪さから突発的に犯し
た犯行だ。観客は、死刑執行された女子学生は冤罪だということを
知っているからやりきれない気分だ。
 2 悪いのはあいつだ
 暗転して舞台が変わると、当事者たちの事件前の日常が描かれる。
そこで犯人の環境と、被害者の環境や友人関係が描写される。冤罪
を作った人たちの、もう一つの悲劇。
3 ありがとう、おめでとう
 もう一度暗転すると、今度は全く同じシチュエーションながら、
ハッピーで平穏な家族や友人関係が展開する。これは一種の幻想で
あり、戻ることのない失なわれた世界だ。
 こういう3つの話を、わずか15人ほどの観客が壁の3方から取り
囲んで登場人物と同化しながら時間を共有する。
 主要人物は、被害者と加害者、被害者の友人、その兄、そして加
害者の兄の5人(=小池瑠莉・柴田知佳・小山佳祐・有田哲・伊達
昌俊)だが、そのほかに登場する22人の人物の、その役柄を紹介す
ることで、その物語の輪郭や雰囲気が少しでも分かるかも知れない
ので以下に書き出すことにする。
 部下・関係者・演出者・警察官2人・兄・刑務官3人・司会者・
裁判長・犬・解説者・記者・父・医者・女・女優・母・同級生・恋
人・男の22人である。
 それを5人の役者(=松本和馬・田村貴大・黒田英敬・野華奈江
・小佐部明広)が入れ替わり立ち替わり演じる。
 狭い舞台に、後の二つの物語を同じ時間軸に従って多数の人物が
入り乱れながら登場するので観客は混乱するのだが決してそれは難
解じゃない。焦慮感を増進させるような、この舞台の本質を表現す
るために用意されたようなものだ。
 一つの出来事を重層的に考えて、さらにそれを複雑に表現しなが
ら分かり易く描いた、新鮮な驚きを感じさせるユニークな舞台であ
った。