演目/第4回 おバカな高校演劇対決

観劇日時/11.3.29.
劇場名/札幌教育文化会館小ホール


 
学外活動をする高校の4つの演劇部が集まっての競演会である。
最近、部活で地区大会に出場するとか全道とか全国とかに出るだけでは飽き足らず、レパートリィにも制約があるということから、このような形での上演が盛んに行われている。
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■演目1  トシドンの放課後

劇団名/琴似工業高校・演劇部
作/上田美和 潤色/中村寛子
演出/菅原有二 演出補/佐々木裕明 舞台監督/林樹
音響/安保卓哉・伊藤翼 照明/安藤大志 
小道具/谷口勝茂 衣装/中田小波・石井まどか

男の友情物語

 大勢の人たちの中で生活できない歩(=佐々木裕明)は別室登校になり、相談室で一人勉強している。別室登校とは、勉強する意欲はあるのだけれども教室での緊張感に堪えられない精神状況にある生徒の保護策として認められている制度である。
 そこへクラスの女子の家の部屋で夜遅くまで遊んでいた哲也(=菅原有二)が、彼女の父親によって学校へ告発され、この同じ相談室で反省生活をすることになる。
 歩は人と交わるのは苦手だが、読書が好きで勉強家でもあるが、哲也は勉強が苦手で髪を染め携帯を離さず、見るからに不良少年だ。だが実は、彼は父親が死んで母親一人の環境で苦しんでいたのだ。
 歩は何も言わずに反省文を代筆してやったり、黙々と一人で掃除をしたりする。そういう歩を見て哲也は次第に心を開いて行く。担任の長山先生(=中田小波)にも悪態を吐いていた哲也は打って変わっていく。
 学期末、歩は進級が出来なかった。やはり人間嫌いが直らないからだ。哲也は美術の時間に、哲也の生まれ育った島に伝わるトシドンというナマハゲのような鬼の面を借りて歩を激励する。哲也は歩の進級を直訴するといきり立つが、歩は静かに留年を受け入れる。
 高校生とは思えぬメリハリの利いた演技と、構成のしっかりした脚本で、感動的な舞台を創った。

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■演目2  Seesaw

劇団名/札幌西高校・演劇部
作/木川田敏春 照明/坂下美穂 音響/横川辰太朗
その他/全員

凝り倒れの物語

 「見る=See」は「見た=Saw」になる。そしてそれは遊具のシーソーの機能でもあり、でも「見た」は「見る」にはならない。面白いところに着眼した。
 だが話は「いじめ」と「祖母との関係」だけに収斂され、それはどっちもありきたりの展開で面白くない。
 「いじめ」では転校生が疎外され力で排除されるが、一人の女子が慰め友情を作る。
 「祖母」は転校して近くに来た祖母との関係が、学校生活が軌道に乗ると次第に疎遠になり、死期を迎える頃に反省する。
この二つの物語は表面的でよくある話であり、それがこの全体の中でどのような位置付けになっているのか、やや無理にこじつけたような感じも大きい。
 この物語が、seesawというタイトルで演劇部が全道大会に出演するという流れとシンクロするのだが、その話と「いじめ」と「祖母」とは必ずしもうまく交差が出来ていない。無理矢理ドックングさせているような感じだ。
 全員、高校の制服のままで演じるのだが、パントマイムで話を展開したり、父親やおばあちゃんを、「らしく」演じる技術はすごい。だが、それはあくまでも技術だ。
 『トシドンの放課後』もそうだが、これも「おバカな演劇」と銘打ちながら、とっても真面目でストレートなのが意外であった。
出演者。太田藍李・阿部未来・渡邊千春・田縁正明・
小林久留実

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■演目3  英雄のcodomoたち

劇団名/札幌北陵高校演激部
作/にへいこういち
演出/櫻井健作 音響/林幸郎 照明/佐藤綾音

巧みで洒落た物語

 ゲームにはまって一日中ゲームばっかりやっている娘(=氏家さつき)が、母親と壮絶な母娘けんかをしたあげく、ゲームのバーチャル世界に侵入した物語。
 そこは「オーバー・ザ・レインボウ」の設定のゲーム世界だった。彼女はドロシイーであり、脳味噌のない女の子オチコボレ(=岡崎彩)、感情をもたないムカンシン(=梅本悠香)、そして勇気を求めてパートの傭兵になっているオバサン(=笠井美沙)、つまりそれは「オーバー・ザ・レインボウ」の案山子でありブリキの人形でありライオンなのだ。
 この辺の設定・構成が実にしっかりしていて、話の展開に期待を持たせる。
 この4人は次のステージに向かって前進するのだが、ドロシイこと高校生のさつきは、もう帰りたい。だが自分の意志でということは、この世界ではプレイヤーなのだけれども自分の意志でなければ現実には戻れない。
 そこへもうけ主義の通信業者が登場する。auをもじった英雄とか、dokomoを表すkodomoとか、この辺のギャグというかダジャレというのかリアリテイがあって笑っちゃうのだ。
 ドロシィを初め彼女のゲームに出てくるキャラクターは実は彼女の意識の裏の表出だったのだ……そして気絶した彼女が意識を取り戻したのは、自分の部屋だった。
 大人にとってはバカバカしいようなバーチャルリアリティの世界を借りて、子供たちの現実の生活と家族の繋がりを誇張する、これこそバカバしいような表現法で描いた脚本と、それを過不足なく舞台化した作品は、面白さと問題の訴求力の二面が特出した収穫であろう。
その他の出演、高橋大樹・櫻井健作・長谷川佳澄・船越都