演目/秋のソナチネ

観劇日時/11.3.1.  11.3.26.
劇団名/札幌 TPS
公演形態/TPSレパートリィシアター
作・演出・音楽/斎藤歩
照明/矢口友理 音響/百瀬俊介
舞台スタッフ/TPS劇団員 宣伝美術/若林瑞沙
宣伝写真/高橋克己 コピーライテング/塚本尚紀
制作/阿部雅子・横山勝俊 
ディレクター/斎藤歩 プロデューサー/平田修二
劇場名/札幌 シアターZOO

あり得ないような現実の愛しさ

 
新そばと新酒が美味しい初秋の札幌のある手打ちそば屋の店内。ここは5年前までラーメン屋をやっていたおやじさんが愛する女房を亡くして突然失踪し、息子(=佐藤健一)が脱サラして始めた手打ち蕎麦屋なのだ。
 そんなある日、この蕎麦屋に中古のピアノがいきなり運び込まれる。そして妙齢の美人(=林千賀子)がそのピアノでソナチネを演奏する。幻影かと、あっけにとられるそば屋の若い主人……
 そこへそのピアノを送り込んだ男(=土田英順=客演)が現れる。彼はこのそば屋の前身でラーメン屋の主人だった、今の蕎麦屋の店主の父親だったのだ。そしてそのピアノを弾く若い女性は父親の新しいパートナーだったのだ!
 店を手伝う店主の姉(=高子未来)・店主である弟、そしてそのどうしょうもない父親との関係、突飛な言動をするアルバイトらしい店員(=木村洋次)、店の客である兄・妹(=岡本朋謙・伊佐治友美子)のこれまたどうしようもない、でも深く繋がる関係、そんな普通の人間たちの忙しく哀しくそして愛すべきひと時が描き出される。
 たとえばこの父親は世界を放浪し、娘くらいの若い女性しかも薄幸の女性を伴侶にするし、ピアノを購入して送りつけたりするわけだけども、実際にそんなことは普通の人間には経済的にも出来るわけはない。だが、そのできる訳のないことをあえてやっていることにするロマンがある。夢がある。夢をじっさいにやってしまった人を妄想する楽しさがある。
 「西線11条のアリア」では、停留所で炊飯することは、この人たちが既にこの世の人たちではないことが前提なので論理的に納得がいく。「アンダンテカンタービレ」にはそういう設定はないが、「春の夜想曲」では中島公園の池の真ん中に、ホテルが特別の地下客室をつくるという妄想的な設定、斎藤歩の創る戯曲の世界には、そのほかにもいろんなあり得ない設定が頻発するのだが、そういう架空の設定を事実と錯覚させる微妙な世界を描き出すことに優れている。
 だが、やっぱり気になったのは、秋の物語でありながら、最終場面でいきなり大晦日に舞台が移ったことであった。
 話の成り行きでそうなるのは分かるのだが、あまりにも唐突で一瞬、躊躇う気分が話の中にすんなりと入っていけない感情が残るのだった。
 今度の舞台では林千賀子のピアノが抜群に良かった。もちろん技術的には素人丸だしなのだろうが、劇の雰囲気にピッタリと合い、土田英順のチェロをサポートしていたのが快い。