演目/第3柿沼特攻隊

観劇日時/11.2.26.
劇団名/イナダ組
作・演出/イナダ 
舞台/FUKUDA舞台
照明/高橋正和 音響/奥山奈々 
プロデユーサー/嶋智子 企画・制作/劇団 イナダ組
劇場名/東京・新宿 紀伊國屋サザンシアター

幻想の特攻隊

 
失職して酒に溺れながら我が子(=菊地英登)が野球で身を立てるように妻(=山村素絵)の必死のへそくりに手を出す男(=武田晋)、だが息子は自分の才能に見切りをつけて大学進学を目指し、父との確執が絶えない。
隣家の老婦人の幽霊(=小島達子)に生前可愛がられた少女(=今井香織)は、老婆が末期の病状で苦しんでいるのを見かねて安楽死を幇助しそのショックで放心状態、一日座ったまま口を利かない。その妹(=宮田碧)は健気な高校生。そしてタクシー運転手の父親(=納谷真大)は事故を起こし、その上脳に異常をきたし、寿命が限られる。手術しようにも結果は不明だし、金も莫大に必要だ。
フイリッピーナ(=上總真奈)は、極道(=川井J@ウ輔)に騙されて乳飲み子を育てながら夜の商売に励むが、その男がたかりに来ても拒否できない。
近所の工場の臨時工として市の福祉係の紹介で来た、中国人の若い男(=高田豊)が、死んだ老婦人の後に入居する。
在日の山本(=杉野圭志)は生活力が逞しく、両親に置き去りにされた少年(=江田由紀浩)と同居しながら、悪事すれすれで稼いでいる。
役所の福祉係の担当者(=野村大)は全力を尽くすが、己の非力を嘆いて職を変える。だが課長(=本吉純平)の対応はいい加減だ。
こんな経済的には最低の人たちだが、この人たちは力を合わせて隣近所が助け合いながらその日その日を暮らしている。
 病に侵された運転手が、やっと決心して手術を受けるとき、彼は延々と世界を弾劾する言葉を並べる。このアパートの戸口に並んだ人たちは、じっとそれを聞きながらその想いを共有する。
だが前回は、そのとき全員が銃を構えて何者かを撃つ幻想だったのだが、僕はそのとき言いようのない強烈なショックを受けたことが忘れられない。
今回そのシーンはなく、男の言葉を静かに受け入れて共感する人たちの姿であった。
ここは絶対に言葉でなく過激な幻影の表現の方が衝撃的だし、この舞台の主眼であると思われる。どうしてこのラストシーンを変更したのか大いに疑問である。