演目 チェーホフの憂鬱
観劇日時/10.9.26.
劇団名/実験演劇集団「風蝕異人街」
公演形態/芝居とダンスによるパロディ版チェーホフ
  JTNA舞台芸術フェスティバル参加作品公開ゲネプロ
原作/アントン・チェーホフ
構成・演出/こしば きこう 振付演出/三木美智代
出演/三木美智代・平澤朋美・李ゆうか・宇野早織
高橋千尋・田村嘉規・松田仁美
劇場名/札幌・中央区 アトリエ阿呆船

おちょくりに憂鬱なのではなく本質としての憂鬱
前回の同じタイトルの舞台が意外性をもってとても印象的な出来であった。そ
の思いがあったのでもう一度観ようと思ったのだが、良い意味で裏切られた。
同じタイトルで同じような実験なのだけれども、今回はすばらしくグレードア
ップしている。
前回は「三人姉妹」と「桜の園」をそれぞれ別の作品として上演したけれども、
今回は「三人姉妹」「桜の園」「かもめ」そして「伯父ワーニャ」の4作品を
微妙に取り込んで、チェーホフの世界を俯瞰したということ、そしてわずか45
分の中に、見事にチェーホフの世界が現出されたことだ。
この集団は「実験演劇集団」と名乗っているが、まさにその実験精神が見事に
一つの成果をだしたといえるだろうと思われる舞台を創った。
チェーホフの憂鬱という題名通り、人生を斜めに見ざるを得ない世紀末の旧制
ロシアの閉塞感は充分以上に現在に通じる。
それを昭和のお茶の間風景に表現し、しかも前衛的なボレロのメロディに載せ
る感性……
このシーンは前回には「三人姉妹」の中で踊られて、そのインパクトが強烈だ
ったので、今回はカットされたのかと思っていたら、最終場面で登場した。
つまりこの突発させようとする憂鬱は、単なる「三人姉妹」の情景だけなので
はなく、チェーホフそのものの根幹なのだと納得する。
その上で今度の舞台のグレードアップの要因を挙げると、前回は二つの演目を
4人の役者がそれぞれ別に演じたのだが、今回はチェーホフの4大喜劇を7人
の役者が通して演じることによって、チェーホフの全体像が浮かび上がったと
いうことだ。
特に今度、面白かったのは、諧虐味であろうか。この4大喜劇はチェーホフ自
身が言っているとおり「喜劇」なのだ。そこに着目した演劇人は数多くいるけ
れども、このようなお笑い系のくすぐりをみるのはおそらく初めてだが、それ
は決して下品ではなく、ほのかな苦笑の味わいで、ああ、これがチェーホフな
のかというような感じであり、そこを発掘したのが頼もしい。
この舞台はチェーホフがパロディにされて憂鬱になっているというコンセプト
らしいのだが、僕はチェーホフの本質が憂鬱にあると読んでしまった。
ダンスが表現の主力であるけれども、いままでのこの集団のダンスはどちらか
といえば、前衛のための前衛ダンスというイメージが強かった。今回のダンス
は登場人物のやむにやまれぬ、人間の行動としての動きであるとの印象を強く
感じた。これもこの劇団にとっての大きな収穫であろうと思われるのだ。