演目 空の記憶 アンネ・フランクに捧げる
観劇日時/10.9.25.
劇団名/座・れら
公演形態/第24回北海道演劇祭「江別からのはばたき」参加
作/浜祥子 演出/鈴木喜三夫 舞台美術/高田久男
照明/鈴木静悟・青木美由紀 音楽/木内宏治・Yukii
衣裳/木村和美 メイク/藤原得代 
演出助手/大内絵美子・前田透 
音響効果・舞台監督/西野輝明 
制作/青木通子・寺沢英幸・戸塚直人
手話通訳/舞夢サポーターズ
劇場名/江別市・「アートスペース・外輪船」

アンネ痛憤の想い
父・母・姉との4人家族がフランクフルトで暮らすアンネたち一家は、ユダヤ
人であるがゆえに理不尽にも迫害するナチスを逃れ、アムステルダムの支援者
ミープ・ヒースの隠れ家である屋根裏部屋で約2年間を過ごした。
そのとき日記を書いていた1929生まれ15歳の少女、アンネ・フランクとその姉
・マルゴーの終焉の地、北ドイツのベルゲン・ベルゼン収容所のユダヤ人殺害
跡地、遥かにモニュメントと、整地されたメモリアル公園が望まれ、公園の向
こう側には小さな資料館があるはずである。
あれから34年後、その荒野の丘を訪ねて来た90歳を越えるアンネの年老いた父
・オットー・フランク(=澤口謙)。
そこにパウラという女性、実は亡くなって34年後のアンネの亡霊(=小沼なつ
き)が現れる。一人生き残ったオットーは、アンネや姉のマルゴーそして妻に
対する贖罪の思いが強い。あれからオットーは、『アンネの日記』を世界中の
人たちに読んでもらえることに全人生を打ち込んだ。
だからこそオットーは、アンネの残した日記が世界中で読まれていることをア
ンネに知らせたい。だがアンネは、ナチスと手を組んだ日本人は許せない。
ふとアンネは、ここへ来たある女性がこの草原に寝そべって空を見上げこの空
をアンネも見たんだと言いながらノートとペンとハンカチを残して行ったこと
をオットーに話す。
そのハンカチは京都の風景が描かれたハンカチであり、ノートの表紙に書かれ
ていたのは日本語であった。
アンネは、この最後の土地での最後の苦しい日々をオットーに日記の形で読み
上げる。苦痛に耐えかねるオットーはのた打ち回り、途中で遮ろうとする。
「『アンネの日記』はあれで終りじゃないだ。アンネ・フランクの最期はこん
なだったと、ちゃんと、ちゃんと伝えて……。お願い」と絶叫する。
その状況を共有することこそがオットーがアンネの存在を確認することだと、
苦しみを耐えて聴く。
素朴だが強烈なメッセージが観客に襟を正させ、そういう時代と人たちへの痛
憤にどうすることも出来ない悔しさと、新しい世界へ向かう覚悟に粛然とさせ
られる。戯曲の凄まじさを舞台と客席が共有し、同じ舞台2度目の観劇がちっ
とも古びない2時間であった。
要所・要所で状況や当時のアンネの心情を伝える詩の朗読者(=竹江維子)が
登場するが、この人の衣裳が何か作業服みたいで気になる。いっそ旅行者=こ
こにハンカチとノートとペンを置いたこの戯曲の作者の方が、現代の私たちと
直接的に繋がって良かったのではないかと思われた。