演目 教文 短編 演劇祭 2010

札幌市教育文化会館主催の短編演劇祭が行われた。今年のテーマは「家族」で
ある。応募17劇団から台本審査で選ばれた8劇団が、二日間に渉って各4劇団
がそれぞれの演目を上演し、観客の投票によってそれぞれの日の最高得票の2
劇団が決勝進出、残った6劇団から実行委員会によって1劇団が敗者復活、そ
して昨年の最優秀劇団を含めた4劇団が3日目に決勝を行うというシステムで
ある。
講評するゲスト審査員は、劇作家・演出家・俳優の流山児祥氏と同じく劇作家・
俳優の佃典彦氏の2氏である。


観劇日時/10.8.20.〜22.
舞台監督/上田知 音響/橋本一生 照明/上村範康
サポートスタッフ/ヒューマンアカデミー札幌校
主催/教文フェスティバル実行委員会
実行委員長/齊藤雅彰
MC/谷口健太郎
劇場名/教育文化会館小ホール
第1日目 予選初日 観劇日時/10.8.20.
演目1  バトン


劇団名/深想逢嘘
作・演出/城谷歩 出演/三上京子・櫻井智美・珠ひよこ・中島慎之介・佐々木
浩人・城谷歩
世代交代する家族の肖像

父と娘、父とその母。親子3代の自分本位の態度。娘の結婚に善意だが反対す
る父親、その父親も子供の時にはその母親から自分本位を叱責されていた。
何と言うことのない普通の話。プロローグの全員による積み木積みのような作
業をしながら、演歌のスターを羅列するシーンは平凡な家庭の積んでは壊す世
代交代の象徴か?
父親に絡む2人の男は、この父親に纏わる社会なのだろうが、短編ではもっと
人物を絞り込んだ方が良くはないか? 
対立する2人以外の人物は、後ろで控えているという能のような象徴的な演出、
ラストで6人全員が短距離レースのスタートラインに着くシーンは視覚的に美
しい。


演目2  焦げカラメリゼ


劇団名/エビバイバイ
作・演出/斉藤麻衣子 
男女の噛み合わない関係を身体で表現する

冒頭、丸まって転がる、男1人女2人(=南あいこ・ナガムツ・吉竹歩)、し
かも下半身半裸の状態で脚を客席側に向けるので女性・性を強烈に印象づける
表現だ。
ごろごろ転がりながらぶつかって激しく暴れる。その様子がリズミカルに舞踏
のように描かれる。「エビバイバイ」得意の激しく身体を使ってテーマを展開
するシーンだ。
男と女と母親が三つ巴で噛み合わない会話を、だんだん激しい肉体のぶつかり
合いで舞台中を全力で駆け回って舞台から突き落として泣きながら格闘を演じ
るのだが、なまじ説明的な会話をする具体性が逆に邪魔になるよう気がする。
説明を出来るだけ減らして観客の想像力に訴えた方が印象強く、それだけ訴求
力が強くなると思われる。


演目3  オサイファ・天使と悪魔と僕


劇団名/星くずロンリネス
作・演出/上田龍成
出演/星ひろみ・柏民レジ男・熊谷嶺・櫻井保英・曽我夕子・
高久絢斗・びす子・and  more ……
学芸会風の劇

財布を拾った男。その中身は去年、この男が強盗した金額と同じだった。財布
をネコババしようとする男の前に現れる天使の親子。悪魔の出現を待つ男。
そういうドタバタ劇をカラフルで派手な衣装を纏った大勢の出演者が楽しむお
遊び風の一幕。映像をたくさん使って演じるだけで、家族である必然性も分か
らない。
だが大勢の観客の中には、こういう派手で分りやすい芝居々した舞台を喜ぶ観
客もやっぱり少なからず居て、それも演劇の一つの存在価値であり一面かなと
も思われ、こういう演劇をレベルアップするのも大事なのかなとも思われる。


演目4  P.S. I love you


劇団名/yhs
作・演出/南参
良質なTVドラマ

父親の通夜が終わった葬儀場、冷静で理性的な姉(=福地美乃)は仕事が忙し
く、死んだ父親の介護に明け暮れていて泣いている暇も泣く気もない。
感情過多で無責任な弟=(小林エレキ)はすぐ泣く。葬儀社の係員(=隅田健
太郎)は香典を丸ごと無くして大騒動。
亡くなる直前に現れた父の隠し子(=岩渕カヲリ)は全く役に立たない。
父が亡くなる直前に弟に託した姉への伝言が2人を和ませるが、そのとき突然
現れた異母妹はちゃっかり葬儀社の係員から香典の入った袋を盗んで逃げよう
としていた。
人物の書き分けが確りして表現も確実な人情劇。流山児氏が言われたようにこ
れは正しく上質のTVドラマだ。


第2日目 予選二日目  観劇日時/10.8.21.

演目1  お母さんのおかげだよ


劇団名/くしろゴールデンシアターきらり座
作・演出/佐藤伸邦
出演/山口豊子・仁井田いくよ・伊東智・木皿洋子
高齢者劇団の限界

昭和の家族と、21世紀の家族のあり方の対比を見せる。でも結局、家庭はお母
さん次第だよということか。
21世紀の方は、家族のあり方をそのまま見せるのではなく、年寄りと子供たち
の会話だけなので、その分、訴求力が弱い。
高齢者の劇団だから、どうしても表現力が幼稚で、演劇を使って元気に楽しも
うという側面が強く、他の各劇団のように演劇そのものをどう表現しようかと
いう考え方に比べると遊びの要素が強いから、同じ舞台に並べるのは違和感が
ある。
高齢者の演劇を否定するわけじゃなくて、別のジャンルではないのかという感
じである。


演目2  うちの庭


劇団名/演劇公社ライトマン
作・演出/じゅうどうげんき
出演者/田村嘉規・中島麻載・フレンチ・重堂元樹
小林由香・エビナヒロキ
噛み合わない人たち

隣り合わせに住む二組の家族、一方がキャッチボールをしながら昼飯の相談を
しているのだが、一向に会話が噛み合わない。隣の庭では芝生の手入れをして
いるのだが、キャッチボールの一人がだんだんと、その芝生に進入してくる。
だがその抗議と対応も噛み合わない。
自己中心の人たちの噛み合わない会話の滑稽さ。だがいくら郊外といえども、
そこにバス停があるという設定はやや無理だし、舞台でキャッチボールをやる
のもアクシデントが起きる不安があって、そこが面白いという考え方もあるが、
それを上手くとりこめるのか?


演目3  117


劇団名/THE BIRDIAN GONE STAZZIC
作・演出/ミヤザキカズヒサ
出演/八十嶋悠介・フリスク・高橋未和
ユニークでシャープな演劇表現

一人の男の一代記なのだが、80年の各一年間の象徴的な80シーンを一シーン20
秒ずつで表現する。しかも年齢順ではなく、たとえば4歳からいきなり50歳に
飛ぶと思えば、40歳から8歳に飛ぶなど縦横無尽であり、その上、そのシーン
の切り替えが非常にシャープで、さらに家族のシーンだけに限らず成長してか
らの景には社会人としての繋がりも演じられる。家族の成長写真をアトランダ
ムに見ているような構成でとてもユニークで鋭い表現は圧倒的である。
だが物語原理主義者の僕としては、要するに一人の男の平凡な一代記を表現し
たというだけであるという点に物足りなさを感じる。


演目4  コロス


劇団名/イレブン☆ナイン
作/納谷真大 演出/イレブン☆ナイン

意表を衝いたユニークな演劇的演劇である。エンターテインメントの要素も大
きく、客席も爆笑・哄笑である。
父(=納谷真大)と娘4人(=小林泉・今井香織・生水恵理・児玉由貴)の家
族に次女の同僚(=野村大)が訪れる。
この家族は簡単に家族を殺す。だがそれは一旦死んでもすぐに生き返るという
不思議な殺人だ。
今日も些細な喧嘩で姉妹同士が殺人を行う、だがやがて蘇生する。事情を知ら
ない男は仰天して止めに入るが、家族は平然と食事を続ける。
次女は「なぜ殺人は悪いのか?」と問う。「悲しむ人がいるからだ」と答える
と「じゃ、悲しむ人がいない人は殺してもいいのか、そんな感情論では納得出
来ない」と答える。
人を殺すとはどういうことなのか?という重厚な主題を血だらけのドタバタ劇
で問いかけて意表を突いた舞台だ。


第3日目 決勝戦日 観劇日時/10.8.22.


初日の優勝者『yhs』、二日目は『イレブン☆ナイン』そして敗者復活の『エビ
バイバイ』、昨年優勝の『怪獣無法地帯+3ペェ団札幌』の4劇団、3劇団は
予選のレパートリィの上演で『怪獣無法地帯+3ペェ団札幌』は新作上演である。
そして最優秀劇団は『イレブン☆ナイン』であった。



演目5  ある日、お父さんが突然・・・・・


劇団名/怪獣無法地帯+3ペェ団札幌(前年の優勝劇団)
作・演出/棚田満
出演者/長流3平・渡邉ヨシヒロ・伊藤しょうこ・長谷川碧・
忠海勇・シチュー山本・柳瀬泰二・吉川直毅

家族が期待するのか分身譚

普通の家庭に、同じ人物である二人のお父さんが現れる。戸惑う家族、お父さんはどんどん増えて5人になる。
ラストの9人によるラインダンスが豪華で華麗である。