演目 鏡が池物語
観劇日時/10.8.14.〜15.
劇団名/楽市楽座
作・演出・作曲・出演・演奏/長山現
劇場名/深川市内・文化センター前庭

神話的・寓話的物語
ダンディな蛇(=長山現)と姫の金魚(=佐野キリコ)の本来、同生できない
はずの二人の純愛物語。そこへホウキオニ(=萌)と名付けられる虫が二人の
間に入り込んでくる。
家族愛と人間愛と、いずれ死に至る人間の静かで暖かな一種の神話的・寓話的
物語は、3人の演奏する音楽、さまざまな楽器と歌唱を伴って演じられる。
特設舞台である円形の池は月を象っているのだろうが、その池に浮かべられた
回転する円盤の上で演じられる芝居は、ゆっくりと円盤が回ると舞台を取り囲
んだ観客には回ってくる登場人物が正面から見える頻度が多く、逆にいうと観
客は頻繁に演者の正面を見ることができるし、そしてそれは一方、人間が生き
ていることはぐるぐると回っていることだとも思わせられる。
夫婦・親子の愛情物語を、蛇と金魚と小さな虫という三つの個体に託して表現
する一種の神話的物語であるが、現代の人間関係を基本にして描くから、その
齟齬が滑稽味を現して微笑を誘うが爆笑・哄笑には至らない。ニヤッ、クスッ
という感じだが、それは現実のわが身にあまりにも引き合うからの苦味である
のかもしれない。
しかもその物語を、現実の家族である父親と母親とその娘で演じるわけである。
3日間のうち初日は所要で観られなかったのだが、2日目は観客に媚びるよう
な演技と、造られたリアリティのない演技は、ちょっと抵抗が強かったのだが、
楽日に観たときにはそういう余分な意識はほとんど念頭になく、この3人の浮
世離れした純愛に静かに溶け込めて秋に向かう長雨の最初の晴れ目の夜の肌寒
さを忘れる一刻であった。
晩夏の一夜を幻想的なシーンで現わした珍しい舞台であったが、今年の夏は
『どくんご』と『楽市楽座』という二つの野外芝居を、この深川で堪能した良
きシーズンであった。