演目 たくらん
観劇日時/10.6.28.
劇団名/イナダ組
作・演出/イナダ 照明/高橋正和 舞台/福田舞台
音響/奥山奈々・大江芳樹 宣伝美術/小島達子
宣伝写真撮影/奥山奈々・岩泉雄士 宣伝広報/岡田まゆみ
舞台部/中村ひさえ・坂本由希子 衣裳部/稲村みゆき・上總真奈・宮田碧・
澤田未来
制作部/小柳由美子・井土雪江・新浜円・駒野華代・岡田まゆみ・田中絵梨・
畠山真波・畠山由貴・阿部星来・佐藤愛梨
劇場名/札幌・西区・琴似・コンカリーニョ

怖いものの正体
豪壮な旧家に棲む一家、主は大学の研究者・和幸(=武田晋)、とその妻・響
子(=山村素絵)、古い伝統の考え方を守る頑なな母親の富子(=小島達子)、
そして和幸の長男で研究者肌の直也(=江田由紀浩)、次男・拓巳(=高田豊)
とその妻・七海(=宮田碧)。4代続いた執事の大柳(=本吉純平)。
拓巳は、直也の経済的援助で起業した加古川(=山田マサル)と、その下で働
く新谷(=菊地英登)と赤羽(上総真奈)と一緒に働いている。
そこへ30年前にこの旧家を出た和幸の弟・春雄(=納谷真大)がやって来る。
春雄は、義母・富子とソリの合わない兄嫁・響子と通じていて実は拓巳の本当
の父は春雄であることを匂わす。
ちょうどそのころ懐妊した七海の相手も実は兄の直也であることを匂わず。す
べて疑心暗鬼の疑惑でこの平和な一家の平穏を掻き回す。
春雄はなぜ、この一家の平穏をかき乱すのか? 底意地の悪い陰湿な行動で兄
と甥との二代に亘る暗い血の歴史を狂信的な春雄を通じて暴き出す。だがそれ
は真実なのか?
春雄の暴力的な行動は見ていて恐ろしいのだが、それ以上に春雄の心情の捩れ
がもたらす人間の心理の底に蟠る狂気が引き起こす行動が恐ろしい。納谷真大
のその狂気の表情と、じっとりとした行動が恐ろしい存在なのだった。
物語は、現・当主の直也と拓巳の時代が描かれ、和幸と響子は回想として出て
くるので観客は混乱するが、それも一種の作者の仕掛けであろうか?
「たくらん」とは拓卵であろうが春雄が託した卵とは何なのか? 混乱を巻き
起こして春雄が去った後、兄の直也は、父の愛した広大な庭園を眺めながら弟
の拓巳に向かって「もう一度この庭に昔のように野鳥がいっぱい来るようにし
たい……」と呟く。
気になったのは、豪壮な旧家なのに正面にどっしりと構える大階段の造りが貧
弱で、激しく上り下りする度にギシギシと揺れて軋み崩れ落ちるのではないか
と思わせ、二階のバルコニーの手摺も手を置くと壊れそうで危なっかしく、豪
壮な邸宅がまるでプレハブみたいに見えることだ。
逆に考えると、その脆弱な邸宅は、もしかして没落した旧家を象徴しているの
かなとも思ったけれども、やはりここはがっちりとしたかつての旧邸の建築を
思わせて欲しかったのだ。物質の堅牢さがそこに住む人の心まで守り切れなか
った悲劇の象徴を見たかったのだが……