演目 春の光

観劇日時/10.6.13.
劇団名/弘前劇場
公演形態/弘前劇場公演二〇一〇
作・演出/長谷川孝治 舞台監督/野村眞仁
照明/中村昭一郎 音響/伊藤和人 装置/鈴木徳人
宣伝美術/デザイン工房エスパス 制作/弘前劇場
劇場名/シアターZOO


生きることの混沌、そして死の予感

同僚の結婚式に集まった、教育委員会の職員たち。仲人である主任(=福士賢
治)には何か重大な秘密があるらしいが妻(=小笠原真理子)はそれと無く察
している。冒頭、象徴的に二人の思いを表すような幻想的なシーンが展開され
る。
東京で浪人をしている娘(=佐藤玲奈)は、現在の境遇に苛立ち、その矛先を
母親に向けて反抗する。母親は今日の役目の焦慮感に煽られて、つい娘と対立
してしまう。
教育委員会では苦労して映画祭を企画しているのだが、この期に及んでトラブ
ルが続出し、対応に大わらわの職員たち(=林久志・田邊克彦・平塚麻似子)。
様々な思いをもって集まっている新夫婦の関係者たち(=永井浩仁・渡邉桂・
大水美保・国柄絵里子)そして知人たち(=長谷川等・藤林里美)は、映画の
話では高尚な話題になるが、雑談では浮気や新婚旅行の失敗話、そして当然、
映画祭のトラブルのことが猥雑に語られる。
噴出する劇的な問題は何一つない。大勢の人たちの心の奥にわだかまる静かな
マグマがかいま見えるだけだ。
主事の秘密とは実は彼はガンに侵されていたのだった。何となくみんなに知れ
渡ると何となく座の雰囲気は変わる。 娘は父親に素直に従い、母親は物陰か
らそれを見つめる。
父親の命の終焉は誰にも断言できない。生きていることの煩雑さ、そしてその
中に死へ向かう人の覚悟が静かににじみ出てくる。リアルと象徴との矛盾した
表現が無理なく交互に現れる。
強い青森弁が時として理解不能な部分もあるけれども、それは雰囲気として何
かが起こったとして捉えられても不足はないくらいのものであろう。