演目 法然と親鸞
観劇日時/10.6.12.
劇団名/前進座
公演形態/法然上人800回忌・親鸞聖人750回忌記念
作/田島栄 演出/橋本栄治 美術/中嶋正留 
照明/寺田義雄 音楽/小六禮次郎 音響/小倉潔
殺陣/林邦史朗
出演/法然=中村梅之助・親鸞=嵐圭史 恵信尼=今村文美 その他26名
劇場名/深川市文化交流ホール み☆らい


宗教史劇
武士であった父親が敵襲に倒れて死ぬ寸前に少年の法然に残した遺言は「復讐
は次の復讐として繰り返される。報復と憎悪の連鎖は断ち切らねばならない」
という言葉であった。
一途な少年・法然は割り切れないながらも、その父の遺言を守り、仏法に拠り
所を求めて「南無阿弥陀仏」という、仏に全面帰依するしかない浄土宗の境地
に達する。
若い親鸞は、混沌の現世を生きるには、すべての営みを肯定することしかない
との悟りに達する。それは仏にすべてを帰依する他力本願の浄土真宗という宗
教的思想だ。
だが二人ともそう簡単に世間から認められない。既成の各宗教の権威や、施政
者たちの都合に優先される社会の枠組みは容易に壊されない。
様々な不自由と迫害に会いながら、二人は異なった出自でありながら意気を共
感して大成した、浄土宗・浄土真宗という日本の宗教の一大根幹を成す思想の
成り立ちを描く。
一種のプロパガンダの趣も強いし、綺麗に創った舞台の脚本も演技も作りもの
臭いけれども、演劇として観るよりも宗教史の教養として観るべきものである
のかもしれない。
宗教は思想であるという観点から、確かな信念に基づく一種の思想史として、
一般の観客の深いところへ訴えかける強さはさすがに力があると思うし、普段
演劇などを観たこともない善男善女たちは、静かに二人の変転とその強さにそ
れこそ舞台上の庶民たちと同じように帰依していたと思われる。
だが、前進座が演じる舞台としては、その演劇的な濃度が薄いような気もする。