演目 雨が降る
観劇日時/10.6.4.
劇団名/劇団しろちゃん
上演形態/S1シアタアin北大祭12
脚本・演出/河内博貴 スタッフ/多数のため省略
劇場名/北大キャンパス内 S棟S1教室

波乱万丈の真面目なエンターテインメント
1918年夏、米価暴騰に苦しむ大衆が米屋・富豪・警察などを襲撃し、それは富
山県に始まって全国に波及し、軍隊が鎮圧に出動した大事件である「米騒動」
が沈静してから何年か後の、横浜のあるレストラン。
そのレストランは改装のために休業中なのだが、その途中で女主人・化野桃子
(=桑谷麻理子)は、資金に困って常連客の米問屋・越後屋(=伊達昌俊)に
相談すると、越後屋は店の権利と引き替えに融資を承知する。
そこへ越後から新入りのウエイトレス志願の絵美子(=廣田裕美)が現れる。
この店の従業員は、しゃべらないコックのしげさん(=小山佳祐)と、やり手
のウエイトレス・茉莉(=森舞子)。
常連客は、トリオの一人に逃げられて売れない芸人・原市治(=芦津昌利)と
赤坂三太(=加藤修)、流行作家の一葉(=森戸航史)など。
実は絵美子の母は米騒動に参加して命を失っていて、その扇動者が桃子と知っ
て復讐に来たのだった。
米騒動の首謀者である桃子を付け狙う刑事の目黒(=伊藤陽一)と、越後屋の
悪徳ぶりを付け狙う新聞記者のロバート長崎(=佐々木雄基)らが入り乱れて
暗闘する。
店主・桃子の正義感と挫折、そもそも彼女の妹が先鋭的な思想の持ち主だった
のだが途中で虐殺されたのだ。桃子はその遺志を継いだのだった。
妹は一方、演劇にも大きな関心を持っていたことから、桃子は新装開店に併せ
て新しい店内で、記念の芝居を打つ企画をたて、一葉にその戯曲を依頼する。
桃子はその芝居に絵美子と二人の芸人を出演させ、越後屋を招待し、越後屋の
内実を暴いて記者のロバートと刑事の目黒にも立ち会わせる計画だ。
こういう波瀾万丈で敵味方の入り乱れる、昭和の匂いの強い物語、そして苦渋
の現実をエンターテインメント的社会派喜劇として、学生らしいエネルギーで
演じて面白かったのだが、残念なのは脚本が先を急ぎすぎて物語が輻輳すると
分かり辛くなったり、演技が荒っぽくて説得力に欠けたりすることだ。
印象に残ったのは、絵美子の秘密が発覚しそうになったとき、手を引かせよう
として桃子たちが仕組んでオドロオドロしい場面を見せつけ、彼女が悪夢を観
たように仕掛けるシーン。如何にも演劇らしい独特な場面だ。
観ている方も、異質な場面に何だろうと違和感を持つが、その直後に絵美子が
「悪い夢を見た」と呟く。彼女も観客も見事に騙されるわけだ。
演技の荒さを承知の上で言うと、学生演劇としては、重い主題を軽やかに表現
した若々しい良い舞台であったことだ。
舞台には始終雨が降って重苦しい雰囲気であるが、ラストで和解した桃子は絵
美子に、「雨の音はお客さんの拍手の音に聞こえる」という。
時代の暗さの中で真実を表現する演劇という存在・現象を、雨と拍手に象徴さ
せた演劇賛歌の表現であろうか。