演目 チェーホフ祭
観劇日時/10.5.22.
劇団名/実験演劇集団「風蝕異人街」
公演形態/北方舞踏結社kamora第三弾
構成・演出/こしばきこう
劇場名/札幌・中央区・栄輪ビルB1・アトリエ阿呆船
三人姉妹の憂鬱
出演/三木美智代・平澤朋美・李ゆうか

憂鬱というより倦怠か
チェーホフの『三人姉妹』をモチーフにしたこの舞踏は、「憂鬱」というより
も「倦怠」という感じが強い。
三人の姉妹の日常を抽象的にコミカルに舞踏として演じる。それはちゃぶ台で
飲む日本茶や食い散らす塩煎餅であったり、小物を干す洗濯女であったりする
和風の日常である。
以前、白石加代子が演じた「早稲田小劇場」を思い出す。抽象的というか戯画
的というか、変にねじれたような舞踏の表現である。
彼女たちは屈託しているらしい。それは憂鬱というよりはあえて「倦怠」と言
いたい。「憂鬱」であるよりは「倦怠」である方が虚無的で救いがたい。
三人の姉妹の現実はまさにその「倦怠」の人生なのだ。非日常的な「舞踏」の
動きの表現は、その世紀末的な倦怠の日常を救いなく表してチェーホフの一つ
の世界を伝えたのだが、それが今の現実に何を伝えるのだろうか?
三人の舞踏の技術は優れてはいるのだが、もっとそれぞれの個性を際だたせた
方がインパクトとチェーホフの本質を伝えただろうと思われる。
それに長い。後半で狂気のように踊り狂うシーン、特に次女が卓袱台の上に乗
って「ボレロ」を三人で踊り狂うシーンは圧巻だが同じパターンを繰り返され
るといささか飽きる。
ラストで、お決まりの三人が山の字型に寄り添ってそれぞれの思いを語るのは、
まさに「三人姉妹」のラストシーンそのものであり、彼女らの憂鬱であり倦怠
でもあるチェーホフを充分に魅せたのだった。
白昼夢
出演/宇野早織

白昼夢というより狂気か
一人の女、たぶん『桜の園』の主人・ラネーフスカヤ夫人が、バスタブの横の
ローリングチエアに座って、売られてゆく豪邸の過去を偲んでいる。彼女にと
ってそれはきっと一場の夢だったのかもしれない。
だが彼女は徐々に狂気に陥っていく。過去が夢であるならば打ち消すのは狂気
に逃げるしかないのだろうか?
彼女の過去は現在の白昼夢であり、ついに水の入ったバスタブに入り込み、ず
ぶぬれのドレスを脱ぎ捨てて、夢を狂気に変える。舞台の一面に散らばる桜の
花びらを掬いとって、かつての思いに浸る。
この桜の花びら、最初は照明の関係か、枯れ葉に見えて、没落した女主人の現
在を象徴するシーンかと思ってみていたら、明るくなると桜だった。散らばる
桜の花びらも白昼夢の象徴であり、没落の象徴である枯れ落ち葉から、夢の象
徴である儚く散る桜の花への、劇的な変化の効果を狙ったのかもしれない。
        ☆
今日上演された二作、『三人姉妹の憂鬱』と『白昼夢』を通して、音楽はポピ
ユラーから演歌そしてクラシックとめまぐるしく変わりながら全編を流れる。
それはどちらかというと物憂いイメージを感じさせる。
コンパクトに纏めたチェーホフ劇として『風触異人街』らしい独特の表現は成
功したと思う。