演目 化粧
観劇日時/10.4.16.
劇団名/座・高円寺
公演形態/旭川市民劇場4月例会
作/井上ひさし 演出/木村光一 装置/石井強司
照明/室伏生大 音楽/宇野誠一郎 音響/深川定次
振付/西川鯉之祐 舞台監督/田中伸幸・幡野寛
出演/渡辺美佐子
劇場名/旭川公会堂

普遍的な不幸の不条理
間もなく取り壊される古い芝居小屋。五月洋子が座長一座のこの小屋最後の芝
居が始まろうとしている。有終の美を飾るあと何日かの公演の今日が初日であ
る。
楽屋では、座長の洋子が張り切って開演の準備に取りかかる。周りに居るはず
の見えない座員たちに何かを言いつけながら舞台化粧と着付けに大わらわだ。
今日の出し物は、一座得意のレパートリィ『伊三郎別れ旅』だ。洋子が演じる
伊三郎が、幼い頃に別れた母親を捜してついに再会するシーンがクライマック
スである。
そこへTV局のプロデューサーが訪ねてくる。いま売り出しの若手俳優が、実
は洋子が19年前に生活の為に保護施設に預けて養子に出した児であることが分
かり、明日のワイドショウでご対面に出演してほしいというオファーである。
売り出しの邪魔になるからと一旦は断って舞台を勤めるが、終幕後に密かに楽
屋の洋子を訪れた若い男は、客席の目立たないところで舞台を観ていたその俳
優であった。
狂喜した洋子は、これからの新しい二人の生活と、出来るであろう新しい家族
の幻想に酔い痴れる。
だが親子の証拠である二人の割り護符は微妙に違っていた。次の幕を待ちきれ
ない客席はざわつく。建物は壊されていく。洋子の心を象徴するように屋台崩
しが始まる。
洋子は狂乱する。これは不幸な女、一生を棒に振ったかもしれない女性の見た、
己の最後の姿の幻影なのかもしれない。
女に限らずほとんどの人は、己の命の最後のこのような不幸の結末に怯えてい
るのかもしれない。そう思うと他人事ではない寒気がする芝居であった。
『化粧』は、一人芝居の成功例としてよく例に引かれる戯曲だが、普通このよ
うな一人芝居は、相手が言ったであろう台詞を繰り返して観客に話の内容を分
からせようとするのだが、それが煩わしく観客には相手の見えないことに苛つ
くのだが、渡辺美佐子は同じように演じても、ちっともくどく感じられない。
ごく自然に会話を紡いでいるように見えるのが不思議だ。やはり役者としてた
だ者ではないのであろう。