演目/CRIME

観劇日時/10.3.20.
劇団名/TUC
原作/芥川龍之介『藪の中』
構成・脚色・演出補/高橋千尋 演出/甲斐大輔 アートディレクター/富田哲司 舞台監督/有田桐 照明/本房義信 衣裳/斎藤もと・マダム・アンジェラ
振付/蓮見せい子 楽器演奏/三島祐樹 ディジュリドゥ演奏/HIRO 制作/能代みゆき・二唐俊幸
劇場名/札幌・中央区・シアターZOO
楷書の推理劇

 
芥川龍之介の短編小説、黒澤明の映画でも有名な『籔の中』である。話は迷宮入りの殺人事件だから一種の犯人探しの推理劇風だが解決するわけではない。
真砂(=高橋千尋)、武弘(=甲斐大輔)、多襄丸(=HIRO)の3人の男女の複雑な心情を並べ較べて人間の心の奥底を提示したようなものだ。
まるで歌唱劇とか舞踏劇とかのようにも見えるが、ちょっと中途半端でどっち着かずな感じもする。表現法はオーソドックスで整然としてはいるのだが、殺陣シーンも含めて整い過ぎて訴求力は弱いのだ。
劇中、真砂が武弘の死に際に言う台詞、「身体はこの世の仮のもの、人間の真実である愛は心にこそある」という、かなり近代的・合理的な思考で、それは不条理を肉体とは離して乗り越えようとするいわば前向きな思考があるような気がする。その台詞は原作にあるのだろうか? という疑問が起こったので早速調べてみた。
真砂がそのとき、武弘に言う言葉は原作では、「こうなった以上、あなたとご一緒には居られません。わたしは一思いに死ぬ覚悟です。しかしあなたもお死になさってください。あなたはわたしの恥をご覧になりました。わたしはこの侭あなた一人をお残し申すわけにはまいりません」となっている。
これは全てを無に帰す一種の無常観であり、不条理を受け入れて諦観する前近代的な思考であるような気がする。
そこを微妙に改訂したところに、この芝居を上演したTUCの意図があるようなのだが、それならばその意図をもっと分り易く、たくさん出して特徴を突出させるような舞台を観たかったのに少々残念だったと思う。
さて、通常の劇場の舞台と客席を逆転させて傾斜のある客席部分を階段舞台にし、通常の舞台部分の平土間に客席を造ったのだが、そのアイディアは舞台部分については意図が良く分ったのだが、劇場全体としては無理な造りであり、客席の2列目から後ろは傾斜がない分、観ずらかったようだ。僕は何時ものように最前列に座ったので判らないが、おそらく観劇条件は悪かっただろうと思われる。去年の暮れに上演された「平和の鳩」の『ゴドーを待ちながら』が同じ劇場を横長に使った舞台設営の効果に較べて成果のほどは疑問だ。
激しい擬闘のある芝居だから、もっと広い舞台で存分に演技して欲しかった。いかにも整然として人工的で縮こまった表現になってしまい、その意味では先日のプロレス芝居と同じことを感じたのだった。
状況描写やその他の登場人物を、斎藤もと・蓮見せい子・下道小百合・中村有沙が演じる。このコロスたちの登場はなかなか洒落た表現であった。