演目/夜のプラタナス

観劇日時/10.3.13.
劇団名/弘前劇場
作・演出/長谷川孝治 舞台監督/野村眞仁
照明/中村昭一郎 音響/伊藤和人 装置/鈴木徳人
宣伝美術/デザイン工房エスパス
制作/弘前劇場
劇場名/札幌・琴似・コンカリーニョ

死へ向かう生の一刻

 
北の地方の海岸の一軒家に住む、元俳優でライターの鈴木孝夫(=青山勝)には、家政婦の若い女性・飯沼あきら(=小笠原真理子)がすべての生活の世話をしている。彼女の妹・もとめ(=谷村実紀)は、大学院で絵の勉強をしながら画家としても一本立ちしつつある恵まれた環境にある。
 ちょうどその妹が、ここへ手伝いに来たところから舞台は始まる。鈴木は胃の全摘手術を受けており年齢でもあり、もう死を覚悟して毎日を送っている。
 経済的に余裕があるから考えが形而上的なのは当たり前と言えよう。というか、この物語はそういう現世的な現実を問題外にした一種の哲学的思考の話なのだ。
 すべて死に直面した鈴木孝夫の、いかに今を生きるのかを描写したその心理を淡々と、しかも軽快に描写した物語と言えよう。だからと言うわけか彼女たちも極めて即物的に対応する。
 その割には二人とも積極的に鈴木に身体をもって挑発するのが意外であるが、これは男の生と性とに執着する妄想かもしれないし、意外と女たちはこの鈴木の遺産を狙っているのかもしれない。その辺は観客が自由に想像できる余裕が感じられて面白い。
全編、いかにも『弘前劇場』らしい雰囲気と、メッセージというか内に秘めても自ずと現れてくる心の声というのか、そういうものが滲み出る秀作である。
 場面の転換にトイレへ行くことを使うのはとても安易な発想だといつも思うのだが、この舞台に限っては、鈴木孝夫が胃病であり、だから彼が頻繁にトイレへ行く必然性があるのであまり気にならない。