演目/ジョン・ガブリエルと呼ばれた男

観劇日時/10.2.24.
製作/メジャーリーグ
原作/イプセン 上演台本/笹部博司 演出/栗山民也
劇場名/深川市文化交流ホール「み☆らい」

博物館的演劇

 
失墜・落剥した銀行家・ジョン(=仲代達矢)は自己中心的な人物である。それでも夢を諦めない。
夫・ジョンのために全てを失った妻・グンヒル(=大空眞弓)は、夫を憎むことのみに生きがいがある。
グンヒルの双子の妹・エルラ(=十朱幸代)はかつてジョンの野望のために、彼に対する愛を裏切られ捨てられた。
ジョンのたった一人の友人・フォルダル(=米倉斉加年)は、ダメ男である。しかし彼こそは強かに平穏にその人生を生きているのだ。
この四人四様の極端な人生模様が、互いに絡み合って北の果ての地に亡霊の如く現れる。
大空眞弓は、台詞がカミカミの大仰な身振りで決めの動きが如何にも大芝居の雰囲気。
仲代達矢も、強くメリハリを意識したハッキリとした発声のこれも大芝居、キッと正面切った決め台詞や、語尾を奇妙なエロキューションで収める、まるで歌舞伎のような演技。
十朱幸代は、弱々しくそれでもこの三人のアナクロな進行展開に必死で着いて行く。
その中で一人米倉斉加年だけがリアルな演技で臨場感を見せる。だが彼の存在が浮き上がることもなく、ポケットから紙吹雪を取り出して撒き散らしたりする茶目っぽい小細工が、逆にこの大悲劇にささやかなリアリティを添える。
このとても現代的な物語を、悲壮感溢れる大仰なアナクロ表現で演じることが、逆に観劇初心者たちの演劇離れに拍車を掛けるのではないかと、この地にしては珍しく大入り満員の客席を眺め渡して心配する。
この観客たちの大部分は、仲代・米倉・大空そして十朱という大ネームの顔を見に来た人たちであり、芝居の中味はおそらく付け足しでしかない。でなければ普段の芝居公演にももっと大勢が観に来てくれてもいいはずなのだ。