演目/キャバレー・ピンキーホール

観劇日時/10.2.19.
劇団名/札幌ビジュアルアーツパフォーマンス学科
公演回数/定期公演
脚本・演出/武田晋 スタッフ・キャスト/学生たち
劇場名/ビジュアルアーツ・1Fメディアホール

虚無の現実

 
タレント養成学校学生の発表会である。タレント養成と、はっきり断っている。だが僕はあくまでも舞台芸術として観る。この芝居は『g-viruss』の初演で04年5月、再演で05年8月にそれぞれ観ている。
今回観たのは、前二回の印象が強かったのでもう一度確認したかったのと、タレントの卵たちの力を見たかったのと二つの理由があった。
前回・前々回の感想を再録しよう。
     ☆
夢を見た人生に翻弄され、苦しんで悩んで、それでも夢を捨てずに、裏街道の闇の道を歩み続けるしかない、底辺の男女たち。そして最後にポッと灯った小さな明り……
東京に森岡利行という劇作家・演出家が主宰する「STRAYDOG」という劇団があって、やくざと麻薬にまみれた水商売の中でうごめく人生模様を得意とした舞台を創っていたことを思い出した。当時、僕がその芝居について書いた文章を一部紹介する。
「これはB級映画の造りである。といってもB級映画を否定しているわけじゃない。それどころか、この良く出来たB級映画もどきの芝居に僕はまったく魅了されているのだ。僕の規定によるB級映画とは『現実離れのした設定の中で、大衆の願望が、ヒーロー・ヒロインのスーパーマン的活躍と艱難辛苦の末、ハッピーエンドに収束する』というものだ。
なぜ簡単にやくざがでてくるのか? なぜ簡単に人が殺されるのか? 普通の人にとっては、現実にはこのような極限の状況に遭う確率はとても少ないと思われる。けれどもこのような極限の状況というのは、人間のある心理を拡大して表現するにはとても便利な設定なので、そういう極限の状況をつくり易いやくざの世界を使うのだろうと思う。TVでサスペンスドラマや殺人ドラマが量産されるのもきっとそういうわけだろう。(中略)
こういう世界の人気と言うものが確実にあるわけだろう。多分レンタルビデオがきっとこの世界に近似しているのではないだろうか? 作者にはこのレンタルビデオのシナリオが沢山あるのである。(第一次『観劇片々3号=99年1月刊』「暗闇のレクイエム」「カノン」などの時評から)」
『続・観劇片々』5号・04年9月刊より
おそらく上手く世の中を渡ることの出来ない力弱い人たちが、何とか自分の生き方を全うしようとして挫折し、プライドを賭けて無理を承知で危険に挑んでいく。人生の裏街道、闇の世界を生きる人たちの人生が、今では過去の産物のような田舎のしがないキャバレーを舞台に繰り広げられる。
非合法のピストルとドスが支配する権力社会と、その中を潜り抜けようとする麻薬密売組織、それを利用して何とかのし上がろうとする弱い立場の人たち……
これは非現実的な嘘物語だという批判は容易だ。だが時代の現実は、命を引き換えにした恫喝と恐怖の体制というものが絵空事ではないことを暗示している。
初演のラストシーンでは、生き残った〈なぎさ〉が、再生を象徴するバアー『なぎさ』の行灯看板に灯りが入ったところで幕になったと思っていた。(04年5月X号P24参照)
今回の舞台も同じ幕切れであったが、そのときすでに次代の希望の象徴であった、〈なぎさ〉本人は、その前のシーンですでに亡き人だったことを知った。
僕が初演を観たときに、〈なぎさ〉がすでに生きてはいなかったということを見逃していたのであろうか? あのときは生き残った〈なぎさ〉が新しい店『なぎさ』を開店するということに微かなハッピイエンドを感じていたはずだ。
だが今度の終幕では、〈なぎさ〉はすでに亡く、たった一人生き残った〈あきら〉が、開店したスナック『なぎさ』の行灯看板に灯りを入れる、同じシーンで幕が降りたのだった……
この救い難い真っ暗な虚無の終幕は、明らかに現代を象徴しており、時代は〈なぎさ〉の生存さえも認め得なくなってしまったのであろうか?
『続・観劇片々』10号・05年11月刊より
     ☆
なぜ、虚無と不条理の人情物語がこうもエンターテインメントとして喜ばれるんだろうか。歌舞伎にはこういう演目が沢山あるし、人気劇団の『新感線』も、その路線だ。
 ピストルとドスと麻薬が幅を利かす暗黒街の一隅にある今は珍しいキャバレーを舞台に、一攫千金をもくろむ巨悪とそこへ沈み込まなければ生きていけない落ちこぼれの人たちの物語だ。
 結局、弱い者は負けて強いものが勝つという非情な現世の不条理な論理の証明であろうか。今回の舞台もそんなやるせない後味の逃れられない印象を強く残した。
学生たちは力いっぱいの表現には好感を持てたが、発声が悪く声の響きが弱く、舞台向きではなく映像表現向きの表現方法かなと思われる。
45人の出演者が3チームで交互出演、10人のスタッフを7名の指導者がアシストする。